全国の児童相談所(児相)が平成26年度に対応した児童虐待の件数(速報値)は前年度比20・5%増の8万8931件で、過去最多を更新したことが8日、厚生労働省のまとめで分かった。調査を開始した2年度から24年連続で増加を続けており、初めて8万件を超えた。
厚労省は「虐待そのものが増えていることに加え、社会的意識の高まりで通告や相談が増えた結果」と分析。25年8月、被害児童のきょうだいも心理的虐待を受けたととらえ、対応を自治体に通知したことや、子供の前で配偶者や親族らに暴力をふるう「面前DV」に関する警察からの通告増加も影響したとみている。
調査では全国207カ所の児相に寄せられた通報や相談のうち、児相が虐待の疑いが強いと判断し、親への指導や施設入所などの対応を行ったケースを集計した。都道府県別では、大阪の1万3738件(前年度比3022件増)が全国最多で、神奈川1万190件(同352件増)▽東京7814件(同2400件増)▽埼玉6893件(同1760件増)▽千葉5959件(585件増)-の順。前年度からの増加率が高かったのは島根(1・84倍、178件)、熊本(1・56倍、931件)-などだった。
一方、厚労省の専門委員会は8日、25年度の児童虐待死亡事例の検証結果を公表した。心中以外で虐待死した児童は前年度より15人少ない36人で、0歳児が最多の16人(44・4%)だった。0~2歳は24人で、全体の7割近くを占めた。
虐待の内訳は身体的虐待が21人(58・3%)、食べ物を与えないなどの育児放棄(ネグレクト)が9人(25・0%)。主な加害者は母親が16人で最も多かった。
■児相、警察、病院 連携へ道半ば 早期把握へ情報共有急務
増加の一途をたどる児童虐待で、平成26年度の児童相談所(児相)の対応件数は年間8万件を突破した。早期把握が虐待対策の第一歩だが、虐待により命を失う児童は依然、後を絶たない。慢性的な児相の人員不足に加え、警察や学校、病院など関係機関の連携が道半ばとする指摘は多い。
「職員は30人近くいるが、家庭訪問や緊急対応で日中、席にいる職員は少ない。職員の増加を通報数の増加が上回っている」
対応件数が4554件と政令市で最多だった大阪市の児相「こども相談センター」職員はこう話す。センターでは3歳と1歳のきょうだいが餓死した事件を機に22年9月、虐待対応専門の担当課を設置。児童福祉司ら2人が宿直するなど24時間態勢で積極的な取り組みを行う。それでも「(厚生労働省が指針に定めた)48時間以内の安全確認に至らない場合もある」(担当者)。
都道府県別で3番目に対応件数が多かった東京都の児童相談センター担当者は職員の質の維持を懸念。「現場では多くの知識やコミュニケーション能力が求められる。人手不足解消のためには経験のない職員も必要だが、研修や現場でじっくり育成する時間が足りない」と話した。厚労省によると、25年度に管内で虐待死が発生した児相で、担当職員の受け持つ事例は1人平均109件に上る。
対応件数の増加は、虐待への社会的関心の高まりとともに、警察当局からの通告の増加が背景にある。虐待の疑いがあるとして、26年に全国の警察が児相に通告した子供は2万8923人(前年比33・9%増)と過去最多。今年4月時点で現職警察官や警察OB計176人が児相に配置されるなど、児相と警察当局の協働が生まれつつある。
それでも警察OBで弁護士のNPO法人「シンクキッズ」の後藤啓二代表(56)は「情報共有は不十分」と指摘する。例に挙げるのが昨年、東京都葛飾区で2歳女児が虐待死した事件だ。
女児は児相の見守り対象だったが、死亡する5日前に住民通報で女児宅を訪れた警察官は父親の「夫婦げんか」とする説明を信じ、あざがあった女児の体を調べなかった。後藤代表は「児相が把握する虐待情報すべてを警察や学校などに提供し、共有を義務付けるべきだ。児相1カ所あたりの職員を増やしても、児相だけで案件を抱え込んでいる限り、問題は変わらない」と訴える。
医療者の立場から児童虐待に取り組む医師もいる。前橋赤十字病院の溝口史剛医師(40)は、虐待の早期発見につなげる医師の研修プログラムを考案。基本知識や児相への通告の意義を説き、初期対応にあたる医師から虐待専門医につなぐネットワーク構築を目指す。「医師が児相に通告した場合、他の患者がその医療機関を敬遠すると考える“通告の壁”がある。関係機関の間で一方通行でない情報のやり取りが必要だが、現状は連携といえるレベルではない」と話した。
■親権停止 申し立て23件
虐待から子供を守るため、親権を最長2年間停止できる制度に基づき、児童相談所長が平成26年度、親権停止を家庭裁判所に申し立てたケースは15自治体で23件あった。このうち今年3月までに親権停止が認められたのは17件だった。
厚生労働省は8日、申し立て事例の一部を公表。ある児童は輸血が必要だったが、父母が宗教的な理由で輸血を拒否したため、医療機関から通告を受けた児相が家裁に申し立てを行った。別のケースでは障害のある児童を父母が登校させず、施設や児相の関与を拒否。訓練治療が必要との医師の判断を受けて一時保護し、家裁へ申し立てた。いずれも家裁で親権停止が認められたという。
こうした行為は「医療ネグレクト」と呼ばれ、状況によっては児童に生命の危険がある。
親権停止は24年の民法改正で導入された。家裁が親権を剥奪する「親権喪失」と比べ、親から子供を引き離しやすくする制度で、24年度は27件、25年度は23件の申し立てが行われている。
参照:産経新聞
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