身近な司法の実現に向け、多様な経歴を持った法曹の養成を目指して県内に誕生した法科大学院が岐路に立っている。神奈川大学(横浜市神奈川区)は2日、法科大学院の2016年度以降の学生募集を停止すると発表した。県内の法科大学院の学生募集停止は関東学院大に続く2校目。司法試験の合格率が低迷し、一部の大学への一極集中も止まらず、全国的に苦境が顕在化している。
神奈川大は、入学者数の低迷を募集停止の要因としており「将来の見通しを確保できない状況で、苦渋の決断」と説明している。現在の在校生が司法試験の受験資格がある間は、一定の教育環境は維持する。全在校生の修了後に法科大学院を廃止するかについては、現時点で未定という。
同大の法科大学院は04年度に新設し、現在は21人が在籍する。初年度は50人の募集定員に対して入学者数は充足していたが、翌年度以降は募集定員に届かない状態が続いた。09年度に入学者数が5割を下回ると、10年度以降、3回にわたって募集定員を見直した。15年度は定員16人に対し、入学者数は6人だった。司法試験合格者数はこれまでで計46人で、14年度は0人だった。
文部科学省によると、2日現在で全国の法科大学院は72校で、募集停止は全国で27校目(廃止の2校含む)。県内では4校あったうち、関東学院大が本年度から学生募集を停止。横浜国立大、桐蔭横浜大は16年度も学生を募集する。
横浜弁護士会も弁護士の講師派遣などを通じて県内の法科大学院に協力してきた。法科大学院支援委員長の木村保夫弁護士は「募集停止は大変残念。最後の学生1人まで支援していきたい」と話した。
◆「多様な法曹」揺らぐ理念 合格者減や一極集中
「自治体法務や国際人権など特色のある授業があったし、実際に市役所や県庁などで活躍している卒業生もいる」。神奈川大学法科大学院1期生の飯田学史弁護士(横浜弁護士会)は母校の特色をこう評し、「大都市に一極集中すれば多様な法曹の育成を目指した制度の理念が失われかねない」と募集停止を残念がる。
法科大学院には地域に根差した法曹の養成が期待されていた。政府は2002年3月、年間の司法試験合格者を3千人程度とする計画を閣議決定した。だが、弁護士需要が伸び悩み、合格者が就職難に直面するなどの問題が深刻化。このため政府は13年に、目標の現実味が乏しいとして計画を撤回した。
司法試験の合格者数は1990年代から徐々に増え、法科大学院修了者を対象にした現行試験の導入後は2千人を超えたが、ここ数年は1800~2100人程度で推移していた。
政府の法曹養成制度改革推進室は今年5月、法曹人口のあり方をめぐる提言案で、合格者数について現状より減った場合でも「1500人程度」は確保されるよう、法科大学院の改革や弁護士活動の領域拡大などの取り組みを進めるべきだと強調した。
現時点での合格者数の減少を事実上、容認したと受け取れる表現ともいえる形で、法科大学院の定数削減の加速につながる可能性もある。ある法曹関係者は「在籍学生数が少なければ自分の習熟度が分かりづらい。競争の激しい首都圏で、法曹を目指す環境として少人数の大学は魅力的に映らないだろう」と指摘する。
参照:神奈川新聞
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