2015年3月12日木曜日

過払い金返還ビジネスに国税のメス――背後に存在する武富士OBネットワークとは何か

国税のメスが入った武富士OBたち
 
 派手なテレビCMなどで、“荒稼ぎ”が予想された過払い金返還ビジネスに、東京国税局のメスが入った。

 東京国税局は、2月末までに、過払い金返還訴訟を手がける弁護士や司法書士の広告を請け負い、コンサルティングなどを行う2つの広告会社グループとその代表を東京地検に告発した。

  対象となったのは、ひとつが渋谷区に本社を置くDSCグループと児嶋勝前代表(44)。もうひとつが中央区のエスピーアンドコンサルティングと森田裕輔代表(46)である。

 2人は、ともに武富士OBだった。

 「サラ金の帝王」と呼ばれた創業者の武井保雄氏に率いられた武富士は、善くも悪しくも日本に消費者金融業を定着させたトップ企業だった。

 過去形なのは、2010年1月に倒産したからで、そう追い込んだのは、2006年の最高裁判決だった。これで、出資法で決められた約29%の金利と、利息制限法の上限である約20%の金利との間の「グレーゾーン金利」は否定され、過払い金返還訴訟が急増、その支払いに追われ、独立系の武富士は金融機関の支援もなく、倒産した。

 トップ企業だっただけに、武富士には消費者金融業界の優秀な人材が集まっていた。だが、金融業界において、末端の小口金融である消費者金融の評価は高いものではなく、再就職に苦労した。

 本来なら、同業種への転業が一般的だが、過去に遡って「グレーゾーン金利」を支払わなければならないという裁判所の判例は、消費者金融業というビジネスモデルを否定するもので、転職先がない。

 そこで一部、優秀な武富士OBが仕掛けたのが、過払い金返還ビジネスへの転業。児嶋、森田の両氏は、その成功例である。
 
協力した弁護士や司法書士たち
 
 消費者金融の債務者を捕まえて代理人となり、消費者金融会社と交渉して過払い金を取り戻し、報酬を得る――。

 これが過払い金返還ビジネスだが、消費者金融の顧客の“上前”を跳ねるという意味では武富士時代とやることは変わらない。ただ、債務者の代理人となることが出来るのは弁護士や司法書士といった「士業」である。

 そこで、過払い金返還ビジネスを手がけようと思えば、弁護士や司法書士と組む必要がある。森田氏のエスピーアンドコンサルティングには、連携の跡が残されている。

 同社の設立は11年2月。やはり武富士OBで、森田氏のひと世代上の人物が、弁護士と組んで過払い金返還ビジネスを手掛けており、森田氏はそこでビジネスのノウハウを学んで独立した。

 その際、埼玉の弁護士会に所属する弁護士と千葉の弁護士会に所属する弁護士と密接な関係にあり、設立後、しばらくして2人を役員に迎え入れている。国税調査が絡むのか、千葉の弁護士は昨年5月、埼玉の弁護士は昨年末に取締役を退任した。

 もっとも、両弁護士がそれまでエスピーアンドコンサルティングと組み、千葉や埼玉の地元だけでなく、全国の消費者金融の債務者から依頼を受け、活動していたことが、彼らのホームページからもうかがえる。

 児嶋氏の事業展開はもっと早い。武富士を退社後、自身で消費者金融を営んでいたが、08年以降、過払い金返還バブルに乗って急成長する弁護士や司法書士などの事務所をクライアントにして急成長した。

 その際、返還ビジネスを手掛けていた武富士OBネットワークとの人材や情報の貸し借りのなかで、最大手にのし上がっていった。09年1月期に5億6000万円だったDSCの売上高は、13年7月期には73億円を達成している。

 東京国税局が目をつけたのは、業績の伸びに対して利益が少なかったためで、DSCは、取引を装って架空の経費を計上する方法で約5億円の所得を隠し、法人税約1億3000万円を脱税したとされ、エスピーアンドコンサルティングは同じような手口で約4億2000万円の所得を隠し、約1億1000万円を脱税したとされた。

 両社とも指摘に従って修正申告し、納税することを明らかにしており、後は、東京地検特捜部の調べと判断を待つだけだ。
 
武富士OBたちの清算はこれから
 
 脱税したということは、「それほど儲かる」ことを意味するが、消費者金融業界に散った武富士OBたちが、必ずしも順調だったわけではない。

 12年6月、弁護士資格がないのに消費者金融への過払い金返還請求を繰り返したとして、警視庁は請け負いグループ8名を逮捕したが、中心となる55歳の広告代理店経営者と、その右腕の52歳の女性は、いずれも武富士OBだった。

 「広告代理店経営者が、債務者リストをもとに負債に苦しむ司法書士を見つけ出し、司法書士の名義を借りる形で、債務者の代理人となって消費者金融と交渉。その際、女性が武富士とは別の消費者金融から持ち出した債務者リストを利用し、効率的な営業活動を行っていました」(警視庁関係者)

 この事件には、過払い金返還ビジネスが陥りやすい2つの危険が秘められている。ひとつは、「非弁行為」と呼ばれる弁護士法違反の誘惑にかられること。もうひとつは、効率的な営業のために債務者リストを違法な形で取得し、利用しがちなことである。

 武富士の元幹部がいう。

 「業績が悪化して社員のモラルが低下すると、過払い金の方に行ったOBから『1件、5万円でリストを売らないか』といった勧誘が増えた。明白な持ち出しが確認されたわけではないが、流出した可能性は否定できない」

 今回、脱税告発がなされた2社のケースで、「非弁行為」や「債務者リストの利用」が指摘されているわけではない。だが、脱税の告発を受けたということは、過払い金バブルに乗じて儲けた企業や経営陣が、他にも「脱税」をしている可能性は否定できない。

 過払い金返還というビッグビジネスに群がった連中の違法行為の清算はこれからだ。
 
参照:現代ビジネス