第2次世界大戦中に朝鮮半島から徴用された韓国人の元労働者に対する賠償を日本企業に命じた10日のソウル高裁判決は、日韓関係が好転しない中、反日世論に「配慮」した判決といえる。
韓国政府は、日本政府と同じく元労働者の請求権は存在しないとの見解を示しているが、こうした司法の姿勢が足かせになり、今後、方針転換を迫られる可能性もある。
「判決が確定すれば、日韓関係に重大な影響が及ぶ」。10日の判決宣告後、日本政府は外交ルートで、今回の判決に対する懸念を韓国外交省に伝えた。
日本側が問題視するのは、1965年の日韓請求権協定で、「完全かつ最終的に解決された」としている強制徴用の元労働者に対する賠償請求権を認定したことだ。同高裁は、被告とされた新日鉄住金に、1人あたり1億ウォン(約880万円)の賠償を命じた。日韓外交筋は「戦時中のことを、戦後にできた(韓国)憲法の精神に反するとして裁く理解しがたい判決」と話す。
韓国では、民主化勢力の支持を受けた左派の盧武鉉政権(2003~08年)下で、請求権協定によって補償を受けられなかった個人の救済に取り組み始めた。韓国政府は05年以降、いわゆる従軍慰安婦と韓国人原爆被害者、サハリン残留韓国人は協定の対象外だったと主張。もともと世論の動向に流されやすい傾向のある司法界にも、協定を見直す機運が浸透していったとみられる。
ただ、韓国政府は元徴用工の賠償請求権については請求権協定の対象とみていて、これまでに約2万7000人の申告を受け付け、計約480億ウォン(約42億3000万円)を支給してきた。判決について韓国外交省は、「判決が持つ意味や関連措置について、関係部署と検討する」と慎重な物言いだ。
このため、原告や支援する弁護士らは、ほかに5件ある訴訟や新たな提訴で同様の判決を積み上げることで、韓国政府に圧力をかける考えだ。張完翼(チャンウァンイク)弁護士は「司法判断が出たのだから、韓国政府も考え直さなければならない」と話す。
仮執行や判決の確定で、日本企業の財産が差し押さえられる事態になれば、日韓関係への打撃は計り知れず、すでに韓国に進出している日本企業のなかには、事業展開への支障を意味する「コリア・リスク」を懸念する声も出始めている。
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