2013年7月18日木曜日

従業員逮捕の突然の知らせ!対応はどうするべきか

■会社として初動でできることは少ない。冷静になることが重要

従業員が突然事件に巻き込まれたり、関与し、逮捕されることがある。企業は多くの従業員を抱えており、子会社、関連会社を含めると、その人数は膨大なものとなる。「当社ではそのようなことは絶対ない」と信じたい気持ちはわかるが、そういう事態が発生しないとは言い切れない。

現実に今年に入り、筆者のクライアントでも4社、そうした事態が発生し、初動対応について問い合わせを受けた。

従業員が逮捕されると、通常、結婚していたり、親族と同居していれば、まず最初に家族に連絡がいき、その後、家族から会社に報告があることが一般的だ。まれに、独身者で家族にも連絡をしたくないと通報を拒む被疑者は、当番弁護士を通じて会社に報告される事例もある。そこで社内はパニック状態になり、どうしていいものか、と悩む企業が後を絶たない。

ここで簡単に刑事事件の流れについて説明する。

被疑者が警察に逮捕されると、48時間以内に検察官に送致しなければならない。任意の事情聴取と違い逮捕状が出ているため、会社の人間が会いたいと言っても被疑者と会うことはできない。この48時間で警察は被疑者を釈放するか送致の手続きを取るかを決めなければならない。

警察が検察官に送致すると、検察官は裁判官に24時間以内に勾留請求するかどうかを決定する。勾留請求しなければ被疑者は釈放される。この場合の釈放は無罪ではなく、多くの場合、被疑者が犯罪を認め、自白し、証拠もあり、証拠隠滅や逃亡もなく、身元も判明している状況のもと、勾留の必要なしとされて釈放されることが一般的である。従って、その後も起訴するかどうかの捜査が継続されるという状態が存在する。逆に否認している場合には釈放されることは少ない。

被疑者の立場から見ると、逮捕からここまでに要する時間は3日間であり、この段階で釈放されていれば、「逮捕」の事実が外部に漏れることも少ないが、往々にして否認事例が多く、その後の勾留によって身柄拘束されてしまうことになる。

検察官から勾留請求を受けた裁判官は勾留するかどうかを判断し、勾留をしないと判断すれば釈放される。勾留は警察署の留置場か拘置所となる。勾留されると、検察官は10日以内に起訴するかを決定する。この期間で判断できない場合は、勾留期間をさらに10日間、裁判官に延長請求できる。合計20日間となるが、その期間以内に起訴できなければ被疑者は釈放される。

起訴、不起訴のほかに起訴猶予処分があり、例えば、被害者に謝罪、示談、あるいは被疑者の十分な反省などがあり、犯罪の証拠もあるが、起訴は猶予するという意味の不起訴であり、いわゆる証拠不十分の不起訴とは全く違う。

起訴されると、「被疑者」という立場から「被告人」という立場に変わり、身柄はそのまま勾留される。ここで身柄を解放するには保釈請求して身柄を解放してもらうことになるが、統計データから見ても保釈率は20%を割り込んでいる。

さて、ここで、話を元に戻す。

会社に被疑者の親族や当番弁護士を通じて従業員逮捕の第1報がもたらされると、その時点でほとんどの場合、罪状等の詳細は知らされないことが一般的である。会社は従業員が刑事事件の被疑者として逮捕された、という事実だけを確認するにすぎない。

従業員が仕事中なのかプライベートな時間帯だったのか、万引きなのか、痴漢行為なのか、迷惑防止条例なのか、あるいは詐欺事件なのか、違法ハーブの不正使用なのかなど、皆目見当もつかないというのが実態である。そこで逮捕された警察署に事情を確認しに行く必要が出てくる。

さらに、目撃証言や事実関係を裏付ける証拠などがある場合と、全くない場合に加え、被疑者本人が酒などによって酩酊している際の行為に至っては、記憶そのものが曖昧で、警察の事情聴取すら行うことができないことがあり、否認、自白の有無の対象ともならない事例に遭遇することも発生する。

さて、こうした事態を踏まえて、企業が初動に取るべき対応を検討する。

初動の段階でマスコミからの問い合わせを受けることは稀であるが、それでも偶然知り得たマスコミ関係者からの「従業員逮捕」の問い合わせについて、答えられることは「現在、事実関係を確認中」だけである。場合によって第1報がマスコミによってもたらされる際には、「そのような事実を認識していない。確認する」とするのが一般的だ。

得てして、マスコミ関係者の方が情報を多く持っていて、「プライベートな時間だったらしい」とか「痴漢行為だったらしい」などの情報から、「従業員のプライベートな時間に行われた問題については、そもそも会社として答える立場にない」などといった無責任な回答を行えば、それこそ火に油を注ぐだけでなんの解決にもならない。

会社としては、あくまで事実関係の検証に努め、証拠や自白の有無などを確認することになるが、状況に応じて、「事実関係については依然として現在も調査中ではあるが、仮にそのような事実があったのであれば、まことに遺憾と言わざるを得ない。二度とこのような事態が発生しないよう再発防止に努める」などのコメントを発する場面もあるだろう。

企業から筆者への問い合わせの中には、被疑者の懲戒のタイミングについて聞いてくる事例もある。従業員逮捕というイメージの悪さをできるだけトーンダウンしたいという企業側の気持ちもわからないわけではないが、逮捕されたという理由だけで、懲戒解雇し、マスコミから問い合わせを受けた際には、「元従業員」というフレーズを使用するのはいかがなものか?

「逮捕」されるには相当の理由が存在していることは間違いないが、最近では、残念なことに、サラリーマンを騙し、痴漢行為を偽装し、警察に誤認逮捕させて示談金を詐取しようとする者すら存在する。

したがって、「逮捕」されたからといって、倫理委員会や懲罰委員会を緊急開催して、懲戒解雇などの処分を下すことは時期尚早と言わざるを得ない。懲戒処分の決定は、就業規則などで定められており、公正で過去の処分事例との比較対象において過大・過小であってはならない。後々、従業員から提訴されるようなリスクを犯さぬよう留意が必要である。

犯罪白書によれば、公判請求される事例は7%であり、50%以上は起訴猶予処分となっているため、ある程度の事実関係は時間の経過とともに判明する。「処分はどうするのか?」とマスコミから聞かれたら、「事実関係の調査結果が判明次第、適切に対処する」で問題ない。
 
参照:AdverTimes(アドタイ)

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