亡父の事業の連帯保証で借金を肩代わりした息子が債権回収会社(サービサー)に給与の一部を差し押さえられ、家族が窮地に追い込まれている。金融庁は2年前、保証人に過度の取り立てをしないよう金融機関に求めた。だがサービサーは同庁の監督外で、保証人保護の流れに取り残される人が出ている。
東北地方に住む団体職員の男性(56)に昨年10月、裁判所から通知が届いた。サービサーの申し立てで給与の一部を差し押さえるという。「こんなことまですんのか……」
男性は24年前、林業会社を営む父が損害保険会社から2億円を借りる際、保証人の判をついた。「長男とはそういうもの。俺もおやじの連帯保証人だった」と言われ、断る理由は見つからなかった。本業が厳しくなった父は不動産経営で家計を支えようと、借入金でアパートを建てたが、やがて空きが目立つようになった。
父が8年前に他界した時点で、1億5000万円の借金が残っていた。アパートを売っても3000万円足りなかった。損保会社の債権がサービサーに移ると月10万円の返済を求められた。3万円ずつ返し続けたがたびたび増額を迫られ、うつ病と診断された。
裁判所の差し押さえ通知が届いた翌月以降、給与から月約20万円が自動的に引かれるようになった。男性はがんが見つかり、今年手術を受けた。妻と2人の子に加え、病気で身体障害者となった母も養う。「母には介護施設への通所をやめさせ、リハビリも減らすしかない。大学生の息子への仕送りも難しい」
他人の借金で保証人が破産や自殺に追い込まれる例が後を絶たないとして、金融庁は11年7月、金融機関が第三者を連帯保証人とすることを監督指針で禁じた。その際、既に保証人となっている人には生活実態を踏まえ返済能力に応じた負担を求めるよう明記した。銀行関係者によると、給与差し押さえは離職の引き金になりかねず、保証人には基本的に行わないという。
一方、サービサーを所管する法務省の監督指針には金融庁のような規定はない。業界団体「全国サービサー協会」は自主ルールで、借り手や保証人への取り立ては「事業や生活に著しい支障が生じないよう可能な限り配慮する」とうたうが、保証人の給与差し押さえは「裁判所の手続きや話し合いを経たものなら問題ない」という。
サービサーによる保証人の給与差し押さえについて、男性の代理人を務める椎名麻紗枝(まさえ)弁護士は「日常生活に直結するような回収で、法律に明記して一律に禁じるべきだ」と指摘。法務省幹部は「法的には認められているが、(第三者保証の禁止を検討する)民法改正論議の方向性を踏まえ、問題があるようなら対応を考えたい」と話す。
【ことば】債権回収会社(サービサー)
返済の滞った不良債権を金融機関から安く買ったり、取り立てを請け負ったりして、借り手や保証人から回収して収益を上げる業者。バブル崩壊後の不良債権処理の促進を目的に99年施行された「サービサー法」に基づき事業許可される。法務省によると、11年末時点で全国に92社あり、累計で37兆657億円を回収した。
参照:毎日新聞
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