2013年3月15日金曜日

仮設住宅で無料相談続ける弁護士「自分がやらなければ」

 津波で流されて横倒しになった漁船が、ひびの入った街道をふさぐ。家族の安否を憂える張り紙が、避難所となった体育館の壁を覆う。電気は止まり、ガスも来ず、夜は真っ暗な闇だった。

 東日本大震災直後の岩手県釜石市。あれから2年がたった。弁護士の瀧上(たきうえ)明さん(41)は「震災復興をめざす 岩手はまゆり法律事務所」を市内で開所した直後から、仮設住宅での無料相談を続けている。

 同県大槌町の仮設住宅で2月、住宅ローンの返済に苦労する60代の女性に出会った。被災者の債務を減免する「個人版私的整理ガイドライン」を利用しようとしたが、条件に合わないと断られたという。「条件が緩和されたので、今なら利用できるかもしれません」。瀧上さんが説明すると、女性の表情が明るくなった。

 「依頼のあった事件を解決する旧来型の手法では、相談に来ない人の問題は埋もれてしまう。問題を拾い上げるためには、こちらから多くの被災者に働きかけなくてはいけない」

 昨年12月からは出前相談も始めた。入院先の病院や寝たきりのベッドにも電話一本で出向いている。

 大阪府出身。平成18年、日本弁護士連合会が弁護士不足解消を目的に釜石市に設置した公設法律事務所の所長に就任した。任期の4年間で1400件以上の相談を受け、多忙を極めたが「釜石に育ててもらった」と感謝している。

 任期が終わり、東京に転居した翌月、東日本大震災が起きた。「司法過疎」の岩手県沿岸部には数人の弁護士しかいない。急増するであろう相談を「支えられない」と直感した。4年間で築いた住民や行政との信頼関係もある。

 「自分がやらなければ誰がやる。行かなければ後悔する」。23年5月に東京の法律事務所を退職し、7月にはまゆりを設立した。

 無力感を感じたこともある。屋外での会議中に津波で多くの職員が亡くなった大槌町。遺族は「なぜ避難できなかったのか知りたい」と声を詰まらせた。でも、法的手段は取りたくないという。何もできなかったとの思いが残る。

 地域の集団移転や、仮設住宅を出た後に住む場所の確保。寄せられる相談には「弁護士としてすぐに解決できない問題も多い」。ただ「話をするだけでも楽になることもある」と被災者に向き合い続けている。

 瀧上さんが釜石に事務所を開いて1年8カ月。業務の多くが無償のボランティアで、事務所の経営は赤字が続き、個人事務所の限界を感じている。

 一方で「地元の事情が分かる弁護士が継続的に取り組む問題は多い。お金にならなくても、公的な活動をする弁護士がたくさんいる仕組みが被災地には必要だ」との思いも強い。

 瀧上さんは事務所の契約が切れる来年7月まで釜石で踏ん張るつもりだ。

 「ずっと被災地を見て、地域の人や自治体と接しているからこそ、できることがある」
 
参照:産経新聞

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