2013年4月2日火曜日

うつ病社員を、“法律視点”で救え!

 うつ病などメンタルヘルス不調者への適切な対応や支援を目的に、医師や弁護士、企業の法務経験者など幅広い分野の専門家が結集して新たな活動を始めた。

 近畿大学法学部教授の三柴丈典(労働法)らが、一般社団法人「産業保健法務研究研修センター」(以下、産保法研。花谷隆志代表理事)を昨年11月に設立。活動の中心である「メンタルヘルス法務主任者」資格講座を4月5日からスタートさせる。

■ 取り組みに法務の視点を導入

 これまで、メンタルヘルス関連の資格としては産業カウンセラーや臨床心理士、検定としてはメンタルヘルス・マネジメント検定などがあるものの、「メンタルヘルスに関する法務をカバーする資格はほかに存在しない」と産保法研理事を務める三柴教授は説明する。

 メンタルヘルスの概念は必ずしも理解しやすいとは言えないうえ、不調者への対応は主に産業医や心理分野の専門家に委ねられてきた。だが、こうした専門家は法律面での知識に精通しているとは限らない。反面、メンタルヘルス問題に直面する社員への対応に迫られている企業の法務や労務担当者は、医療や心理分野の専門家ではない。

 こうした中で三柴教授は「信頼に足る、プロフェッショナルによる有機的な連携が必要」と判断。「組織運営や人事労務管理、福祉や産業保健、それらを総合的にカバーする法務の視点が欠かせない」として、産保法研の設立に踏み切った。

 産保法研の主な活動内容として、?メンタルヘルス法務主任者資格制度(民間資格)の運営、?個別企業を対象としたメンタルヘルス不調者への対応・支援事業がある。

 前者については、「メンタルヘルス法務主任者資格講座」を創設。延べ48時間を受講するカリキュラムを設けた。講師には三柴教授のほか、宮岡等・北里大学精神科講座教授、生越照幸弁護士(労働法)、産保法研で専務理事を務める天野常彦・天野メンタルコンサルティング代表(元オリンパスソフトウェアテクノロジー社長)など、各分野の専門家が名前を連ねており、労働関連法規や精神疾患に関する知識を得るとともに、想定事例を用いたディベートなどを通じて実務についても理解を深めることができる内容になっている。

■ 「切り捨て」でなく「切り分け」を

 産保法研の事業に対する関心の高さは、2月9日に東京・新宿で開催されたセミナーの盛況ぶりからもうかがい知ることができる。この日の参加者は113人にのぼり、企業および労働者側弁護士による「模擬法廷」が関心を集めた。また、天野専務理事が経営者としての自らの経験を元に「メンタルヘルスサポートは会社を変える」と題した講演を行い、働きやすい職場作りへの改革の必要性について語った。

 これまでの日本企業のメンタルヘルス対応のあり方に疑問を抱く三柴教授は、「メンタルヘルス問題を抱えている社員については(組織からの)『切り捨て』ではなく、『切り分け』(問題の所在を踏まえたうえでの適切な対応や支援)が必要だ」と指摘する。そのためにも「多くの専門職が法律的知識を軸に連携するとともに、法律を理解する人材の育成が急務だ」(三柴教授)とする。さらに、福祉的な対応の必要性を踏まえ、うつ病に罹患した労働者や離職者の支援のために社会福祉法人と連携した事業も検討している。

 折しも厚生労働省は、職場でのメンタルヘルス不調者への対応強化を目的とした労働安全衛生法の改正を進めようとしている。産保法研の取り組みはあくまで自主的なものだが、適切な対応ができる専門職を養成するという点で社会的意義が大きい。
 
参照:東洋経済オンライン

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