2013年4月8日月曜日

社員が医師や弁護士に挑戦 タマイノ酢のユニークな人材育成制度

 医師や弁護士といった専門的な役割は、外部機関に業務を委託したり、その道の専門家を雇用するのが、いわば当たり前。しかし、自社に必要な専門職は、自社で育成するという企業がある。お酢や健康食品などで知られるタマノイ酢。同社には調理師や医師、弁護士などを育成する「フューチャー制度」というユニークな制度があり、希望する社員は条件をクリアすれば、チャレンジの道が開かれる。いったい、なぜこんなことをするのだろう。

 この制度は平成14年に導入した。対象となる専門職は、事業上必要と考える調理師、フードコーディネーター、医師、弁護士、税理士、アスリートの6つ。なんでアスリートが…という気がするが、これは健康に関する商品を扱っているためという。制度の対象者は、希望する社員の中から、学力や資格取得後に会社に貢献できる人材かどうかなどを条件に、面接で選考する。

 例えば、医師を希望する場合。条件は「1年間の予備校を経て、国立大医学部の3年次編入試験に合格しなければならない」というかなりハードルの高いものだ。ただ、そのための費用は会社が負担する。この制度を利用して、この春、研修医を終え、ひとり立ちしたばかりの医師が山根剛(33)さん。

 山根さんは国立大の大学院で農学を専攻し、平成16年に入社した。入社後、いろいろなイベントの企画や工場の立ち上げなどのプロジェクトに携わったが、以前から医学に興味を持っていたため、同制度に応募した。そして、見事、琉球大医学部を卒業し、医師になった。

 今後、社員の健康相談などにあたるほか、医学的な見地からのさまざまなアドバイスなど、学んだことを業務に活用していく予定だ。人事担当者は「決まった仕事があるわけでないので、柔軟に発想して社員の健康に貢献してほしい」と期待を寄せる。

 社員を「医師」に育てるためには当然、多額の費用がかかる。なのに、なぜ、そこまでして、このような制度を設けるのだろう。その理由の一端を、同社の採用制度に垣間見ることができる。入社してくる社員はもちろん、全員が職務経験をもたない新卒だ。同社は経験者の中途採用は一切しない。昨今、即実践に役立つ中途採用を拡充する動きが産業界では半ば当たり前になる中、この点、同社は異彩を放っている。

 その理由について、「会社は文化を含めて醸成する場。単にスキルではなく、家庭をつくるように、同じ文化、考えを共有できる人材を一から作り上げていくことを重視しています」と人事担当者。ここまで徹底しているとは、ちょっと驚いた。ちなみに、同社ではここ25年以上中途採用をしていないという。

 20代で部下を持つなど、若い社員が多い同社では、一人一人が積極的に自己表現をし、成長していくことを大切にする社風をもつ。そのため、年齢や経験を重ねた中途社員を採用していては、一から育てた若い社員が活躍するチャンスが減ると考えるのだ。

 したがって、たとえ医師という“難関資格”であっても、外部の人間に頼るのではなく、自らの社員の中から育てる同制度を設けたというわけだ。もう1人紹介すると、河田智子さん(38)さんは、22年4月に調理師学校を卒業し、調理師になった。河田さんは自ら考案したレシピを同社のホームページで公開するなど、文字通り、調理師としてのスキルを仕事上で発揮している。

 かつてこの制度を利用して、競歩の日本選手権入賞選手やフードコーディネーター、医師などになった社員が数人がいた。いまは紹介した2人だけ。現在、制度を利用して専門家をめざしている社員はいない。同社では「人口の減少などで国内市場が広がらない中、商品の付加価値を高めることが必要。そのためには、幅広い分野で、より高度な専門知識をもつ社員をどんどん育てていきたい」と話している。

参照:産経新聞

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