神奈川県逗子市や長崎県西海市で発生したストーカー殺人事件などをきっかけに国会で続いていたストーカー規制法と配偶者暴力防止法(DV防止法)の改正作業が24日、与野党でほぼ合意し、両改正案は可決、成立する見通しとなった。ストーカー規制法は2000年の成立以来、初の改正となる。
ストーカー規制法改正案は、嫌がる相手に電子メールを繰り返し送信する行為を「つきまとい行為」に加えることなどが柱。現行法は無言や連続しての電話、ファクスを送る行為を禁じているが、メールは対象外だった。また被害者の居住地を管轄する公安委員会だけでなく、加害者の居住地やストーカー行為があった場所でも警告を出せるようにする。
一方、現行のDV防止法は保護対象を事実婚を含む配偶者や元配偶者から暴力を受けた人に限定。改正案はデートDVと呼ばれる同居する交際相手からの暴力も対象とし、接近禁止などの保護命令を裁判所に申し立てることが可能になる。
逗子市の事件(12年)では1400通以上のメールを送信していた加害者の男の立件が見送られ、西海市の事件(11年)では元交際相手から暴力を受けていた女性の母親と祖母が殺害され、保護対象の拡大を求める声が高まっていた。
◇警察幹部「摘発へ強力な武器」
警察幹部はストーカー規制法改正の見通しがたったことに「犠牲者や潜在的な被害者のことを考えると一日も早く成立させたかった」と話す。
警察庁によると、昨年1年間に把握したストーカー被害は前年比36%増の1万9920件、加害者の摘発も同87%増の1855件でいずれも法施行後、過去最多を記録した。
連続メールによる被害を示すデータはないが、全国の警察が11年1月~12年5月に把握した恋愛感情のもつれを原因とするトラブルのうち、連続メールが確認された事例は約2500件あった。警察幹部は「メールは既に日常的なツールで、法改正は強力な武器になる」と期待する。
逗子市の事件で元教員の男が送信したメールは謝罪や慰謝料を求める内容だった。脅迫的な文言がなかったため、地元署は事件化を見送った。
ある警察幹部は「金銭トラブルを主張するならば弁護士を通じて交渉するよう求め、従わなければ債権を口実にした面会要求と見なして今後は摘発する」と話す。
一方、警察庁は男が脅迫罪で保護観察付きの執行猶予中に連続メールを送っていた点も重視。4月以降、加害者の情報を保護観察所と共有する取り組みを始めている。
◇被害者の兄「司法と治療の協力必要」
昨年11月に発生した逗子市の事件で、地元署に再三相談しながら、元教員の男(当時40歳)に妹のセミナーコーディネーター、三好梨絵(りえ)さん(同33歳)を殺害された男性(41)=福岡県在住=が毎日新聞の取材に応じた。
男性は、ストーカー規制法が改正される見通しになったことについて、「一歩前進だとは思う。条文にメールを規制する一文があればあの日に事件は起こらなかった」と評価した。一方で「法改正で事件を防ぐ取り組みが終わりになればかえってマイナス。梨絵に『良かったね、これで安心だね』とは言えない」と複雑な思いを明かした。
また、「生き生きと仕事を続けていたのがある日突然断ち切られた」と振り返り、「多くのストーカー事件で『被害者はなぜ逃げなかったのか』との声を聞くが、一度被害に遭うとすべての幸せを諦め、一生逃亡生活を続けないといけないのか」と被害者側が逃げることを強いられる現状に疑問を投げかけた。
その上で、加害者についても「刑罰だけでなく、カウンセリングなどの治療を受けさせるべきだ。専門家の育成や司法と治療の協力体制作りが必要だ」と訴えた。
参照:毎日新聞
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