2013年9月30日月曜日

取引先に迷惑をかけないために

■「善意」が仇になることも

 経営者としては、会社が破産するとしてもこれまでお世話になった親密な取引先や金融機関、苦楽を共にした役員などに対して、破産手続きの前に少しでも恩返しをしておきたいという誘惑にかられることもあるでしょう。その誘惑に負けて、特定の債権者だけに対して債務の支払いをしてしまうことも十分考えられます。

 しかし、その結果、相手方に迷惑をかけることになり、また、円滑な破産手続を阻害することになる場合もありますので、注意が必要です。

■否認制度は何のためにあるか

 破産法には、破産手続開始決定前に実行された債権者を害する行為を失効させて、管財人が財産を取り戻すことができる「否認制度」があります。

 裁判所から破産手続開始決定が出ると、債務者は自由財産を除く財産を自分で自由に処分できなくなります(管理処分権の失効)。逆にいうと、破産手続開始決定前には、破産する会社や経営者はその財産をどのように処分しようと自由であるというのが原則です。

 しかし、その原則を貫くと、債権者全員に分配されるべき債務者の財産が減少してしまいます。そこで、多くの債権者を害することを防止するための否認制度が設けられているのです。

 代表的な否認対象行為としては、役員や近親者への債務の返済、会社財産を換金した代金を使ってしまったり、隠してしまう行為、取り立ての厳しい貸金業者や親密な取引先への期限前弁済などがあります。

■「えこひいき」はNG

 経営者としては、他の債権者を差し置いても、親密な取引先への支払いだけはしたいと考えることもあるでしょう。

 しかし、破産手続き開始前に一部の取引先に対する支払いだけを行うことは偏頗(へんぱ)行為の代表的なもので、否認の対象になりかねません。偏頗とは「かたよること。不公平。えこひいき」(『広辞苑』)のことです。

 「実は、資金繰りがかなり厳しく、この後、当社は破産申立てをします。しかし、御社には長年世話になったから、御社だけには内密にお支払をさせていただきます」という旨を伝えた上で支払いをした場合は、その弁済行為が否認されてしまう可能性が大です。

 偏頗弁済に対する裁判所の否認が成立するためには、支払いを受けた取引先が「債務者が『支払い不能』であることを知っていた」という要件が必要です。先の例ではこの要件を満たし、管財人は否認権の行使を検討することになります。そして現実に否認権が行使されると、「御社だけに内密にお支払い」した行為の効力が否定され、弁済を受領した取引先はせっかく受領したお金を返さざるを得なくなってしまいます。

 親密な取引先にだけは迷惑をかけないように配慮したつもりが、かえって迷惑をかけることになるのです。

■下手をすれば詐欺罪

 否認対象行為を行った場合、単にその行為を否認されるだけでなく、(1)会社役員に損害賠償義務が発生する可能性、(2)個人については債務の支払い義務の免除(免責)が受けられない可能性、(3)詐欺破産罪や詐欺罪、業務上横領罪、背任罪などに該当する可能性がありますので、十分注意してください。

 スムーズに会社を清算し、経営者の人生の再スタートを切るためにも、否認対象行為は厳に慎み、財産の変動を伴うアクションを起こす場合にはその行為が否認対象行為に該当するかどうかについて、弁護士に逐次確認するようにすべきです。

 破産費用の捻出やその他の必要性に迫られて、会社財産の一部を換金する場合にも弁護士に相談しつつ対応し、破産申し立て後に管財人から否認権の行使がなされないよう十分注意する必要があります。
 
参照:プレジデント

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