2014年6月12日木曜日

<成果賃金>解釈拡大の恐れ

 働いた時間と関係なく、成果だけに応じて賃金を払う制度の導入が決まった。近くまとめる成長戦略に目玉のほしい首相官邸が経済界の要望に乗り、「労働強化」を懸念する労組や厚生労働省を押し切った。

  当初、厚労省は新制度自体に慎重だった。しかし、安倍晋三首相が5月28日の産業競争力会議で導入を指示したのを受け、姿勢を転じた。その際、田村憲久厚労相は対象者を世界で活躍する為替ディーラーなどに限るよう主張したが、甘利明経済再生担当相は「限定しすぎだ」と突き返し、調整は難航。結局、11日は「職務が明確で高い能力を有する者」で「少なくとも年収1000万円以上」とあいまいな内容で決着した。

 田村氏は終了後「普通の課長代理などは対象外」と周囲に語った。厚労省内には、新制度導入への不満は残っているものの、今後自らのコントロール下にある労働政策審議会で対象者を詰めることになり、ホッとした空気も流れている。

 議論を主導したのは経済界だ。成果に応じた賃金制度に変え、企業の国際競争力を高める狙いがある。経団連の榊原定征会長は9日の記者会見で「少なくとも全労働者の10%程度は適用を受けられるようにすべきだ」と強調しており、今後、拡大を求めるとみられる。日本総合研究所の山田久・調査部長は「改革の第一歩として評価できる」と指摘しつつ、「雇用の安全網の拡充などを同時に進めるべきだ」と注文した。

 かつて首相は、同様の制度を検討しながら断念した。反発を承知で再び持ち出したのは、外国人投資家らの好感を期待しているからだ。株価重視の自らの経済政策、アベノミクスを腰折れさせない、との強い思いがうかがえる。首相の経済ブレーンは「新制度は市場で歓迎されるはずだ」と言う。

 野党や労組は反発を強めている。11日の国会審議で、民主党の山井和則元厚労政務官は「年収要件はブレーキにならず(引き下げられ)『アリの一穴』になる」と批判した。

 「職務が明確で高い能力を有する者」という職種も、広い解釈ができ対象者が膨らむとの見方がある。労働法制に詳しい棗(なつめ)一郎弁護士は「対象範囲が極めてあいまいでどこまで絞り込めるのか疑問だ。政府は(今国会で成立見込みの議員立法)過労死等防止対策推進法案との矛盾をどう考えているのか」と訴える。

参照:毎日新聞

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