中古ショップ「まんだらけ」で発生した漫画『鉄人28号』のブリキ製人形万引き事件で、商品を返却しなければ防犯カメラに撮影された万引き犯の顔を公開すると同社が発表し話題を呼びました。結局、警察の要請にもとづき公開はされずに犯人は逮捕されましたが、今回の事件は、万引き(窃盗)に対する企業(店舗)側の対策の在り方について、一つの転機になる事件といえます。
万引きは原則として損害保険の対象とならず、被害に遭った企業は、犯人を特定して損害賠償請求を行うか損失を自ら補填する以外の手だてがありません。ただし、店員が万引き犯を取り押さえようとして逃がした場合だけは、強盗や盗難として損害保険の対象となります。
今回、万引き犯の自供通り犯行時に「ショーケースが開いていた」のであれば、施錠されていれば盗難として損害保険の対象となる可能性が高かったものを、まんだらけが免責にされるような陳列をしていたことになり、同社にとっては不利な状況にあるともいえます。
また、「写真公開」については、複数の専門家が、法令に抵触する恐れがあることを指摘していますが、実名で今回の問題にコメントしている人は少ないように思われます。中には8月13日付けニュースサイト「zakzak」記事『まんだらけ万引犯顔写真公開の顛末 全面公開中止 若狭弁護士「処罰の対象にならない」』のように、法令への抵触の有無よりも、処罰の可能性についてコメントされる弁護士もいることから、今後、同様の出来事があった場合に企業が取るべき対応がどのように変化していくのかも注目すべき点です。
また、「YAHOO!ニュース」の意識調査『万引き犯に「顔公開する」と警告、どう思う?』では、35万件超の回答が寄せられ、その90%以上が「妥当だと思う」と回答しています。テレビやインターネット上などで、多くの芸能人が「顔写真の公開」を容認する発言をしていることもあり、万引き犯に対する制裁のほうが、遵法よりも関心を呼んでいるように感じます。
●店側に多大な労力とコストが発生
万引き被害に遭った企業は、警察に被害届を出し犯人を逮捕してもらい、犯人に直接損害賠償請求を行わなければなりません。2012年度の認知件数だけで13万4876件、逮捕者が9万3079人(検挙率72.5%)という状況です。このように毎年かなりの数の万引きが発生し、小売業の悩みの種となっていますが、金品の回収が未定な状態で社員の時間と労力、多大な出費を割くことがどこまで有効なのかという問題もあります。
【万引き被害により小売店側に発生する対応】
警察への通報、被害届の提出、事情聴取、逮捕後の警察からの連絡対応、加害者への損害賠償請求、損害保険会社との交渉、犯人に支払・弁済能力がない場合の親権者又は親族との交渉、弁護士対応
上記のように、万引き犯から損害賠償を受けるためには、小売店側に多大な労力とコストが発生するため、多くの小売店が「泣き寝入り」やそれに伴う「廃業」を強いられているのが実状です。こうした実情が「犯人の顔写真公開」に多くの賛成意見が集まる要因になっていると思われますが、例えば犯人の顔社員をネット上に公開すると、その個人情報が半永久的に残ってしまいます。これはその後の犯人の更生を妨げ、再犯に向けた環境を整備しているともいえます。
万引き防止に対する有効な手立ては、万引きをしようとしている人への店員の「声掛け」です。監視カメラがここまで普及している日本において、万引きの認知件数が高止まりを見せているという現実は、監視カメラでの撮影に基づき警察に相談して対応をするという事後対応では不十分であることを意味しています。ただし現在、多くの小売店で人手不足が課題となっており、万引き対応に十分な店員の労力を割けないのが実状です。
●今後の広がりが予想される顔認識システム
最後に、日本ではなかなか利用の有効性が議論されない顔認識(顔認証)システムについて、いくつかの事例を紹介します。
『顔認識技術、逃亡犯をネパールで追い詰める』(8月19日付「WIRED」)
『アルゼンチンのティグレ市、NECの顔認証技術で街中監視』(8月19日付「クラウドWatch」)
『万引き犯の巧妙な手口を検証!犯人を見抜く方法とは!? 』(8月22日付「今日のココ調」)
これら顔認証の取り組みは、すでに日本でも空港や商業施設において、防犯、顧客管理購買行動調査等の目的で始まっています。日本は2020年の東京オリンピック開催を控え、外国人観光客年間2000万人の受け入れを目標としており、今後さらに利用シーンや運用ルールが整理され、活用されていくことが予想されます。特に、防犯の分野での活用は本人同意や法的制約について明確な国の基準がなく、それぞれ提供・運営主体による自主的な運用基準で徐々に広がりつつある技術であるため、混乱を招くケースもあります。
前述の通り、万引き被害に遭った企業は、損害を自己責任で補填していかなければなりません。犯人の顔写真公開によって個々人の犯罪を公表していくのか、店内の防犯カメラを増設し認知件数の増加を目指すのか、もしくは顔認証システム等の新たな防犯システムを導入して再犯を抑止していくのかなど、今後も議論が必要です。
参照:Business Journal
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