2014年1月30日木曜日

1万円台で可能「親子鑑定」を危惧…専門家「鑑定後の生活に覚悟あるか?」

 平成17年に離婚した元光GENJIの俳優、大沢樹生さん(44)と女優の喜多嶋舞さん(41)の長男(17)をめぐる出生騒動で、「DNA型」による親子鑑定が注目を集めている。刑事事件の捜査手法として発展してきたDNA型鑑定は技術の進歩に伴い、ここ十数年で一気に大衆化が加速。現在では一般人も1万円台から検査することが可能になっている。こうした現状に専門家らは「『究極の個人情報』が規制もなく扱われている」と危機感を強める。当事者間の合意もないまま内緒で鑑定ができる時代に、関西の専門家はこう問いかける。「人生を左右される子供の存在を置き去りにしていませんか。鑑定後の生活に覚悟はありますか」

  ■ガムやたばこの吸い殻でも…

 「真実=子供の将来」

 「自宅で15分の遺伝子検査」

 インターネット上には、格安な費用で親子鑑定を実施する業者がずらりと並ぶ。そのうちの1つの業者に電話をかけ「鑑定には相手の了承を得られるか分からない」と尋ねると、「たばこの吸い殻や下着の付着物でも鑑定できるので、相談に応じますよ」との返答が返ってきた。

 費用は1万円台からで、試料を郵送した数日後にメールで回答を受信することも可能だ。手軽さが需要の拡大につながり、経済産業省の平成24年調査によると、遺伝子検査を実施する国内の業者は約740社に上った。

 業者のホームページでは「チューイングガム」「電気カミソリ」「舌でなめた封筒ののりしろ」なども鑑定可能な試料として例示されており、片方の当事者に内緒で鑑定できることも分かる。業界団体のNPO法人「個人遺伝情報取扱協議会」(東京)では、「試料採取対象者から対面で同意を得る」などと規定したガイドラインを設けているが、加盟しているのは26社にとどまる。

 ■犯罪捜査から飛躍的に精度向上

 DNA型鑑定の歴史は、そう長くない。

 1985(昭和60)年にDNAで個人が特定されることが発見され、その後犯罪捜査での活用を目指し日本の警察でも採用された。DNA型鑑定の結果が冤罪(えんざい)を生む一因となった「足利事件」(平成2年)の捜査当時は、同じ型を持つ人の現れる確率が「1000人に1・2人」だったが、現在は「4兆7千億人に1人」と、飛躍的に精度が向上した。

 技術の発展に伴い、活用される領域は民事上の争いにも拡大。父親が子供の認知に応じない場合に裁判所が認定を行う「強制認知」や、逆に親子関係の不存在を確認する家庭裁判所の審判などで利用されるようになった。

 東京都内の男性が60年前、出生した病院で別の新生児と取り違えられていたことがDNA型鑑定で判明し、東京地裁が昨年11月、病院側に3800万円の賠償を命じたことも記憶に新しい。

 ■ネット普及と足並み合わせ

 それでも、司法手続きの中で行われるDNA型鑑定は家裁での調停が不調に終わった場合に限り、当事者間の合意を踏まえて行われるため、実施のハードルは高かった。調停に詳しい弁護士によると、「大学の法医学者に依頼し数十の試薬を使って検査するため、当事者が負担する費用は100万~200万円を超えていた」という。

 そんな中、1990年代後半から鑑定を請け負う業者が登場し、2000年代に入ると急速に拡大。業者の競合で、低価格化も進んだ。インターネットが普及した時期と重なっており、この弁護士は「できれば公の場ではなくひそかに鑑定をしたい、という利用者の願望を満たす環境が整った」とみている。

 ■父親の“選別”も可能に

 2011(平成23)年ごろからは、さらに“進化”したDNA型鑑定も登場している。

 母親の血液を検査するだけで、胎内の子供のDNA型を調べることが技術的に可能になったのだ。極端な例を挙げれば、経済力に差のある2人の男性と性的接触があった女性であれば、父親を確認した上で出産するかどうかを決めることもできるという。

 母親の羊水や血液を使用した出生前診断は、胎児の染色体の病気を確認する手法として拡大しつつあるが、遺伝子ビジネスに詳しい北里大の高田史男教授(臨床遺伝医学)は「高齢出産のリスクで苦悩する夫婦などとは全く別の次元で、ごく軽い気持ちで『生命の選別』ができるようになってしまう」と危機感を強める。

 急速に鑑定技術が進む一方、経産省の報告書は「直ちに法制化して事業者の経済的権利を束縛することが必要な重大な事象が生じているとは考えられない」と結論づけるなど、遺伝子検査の規制に関する議論は十分に進んでいない。

 本山敦・立命館大教授(家族法)は「海外での検査も普及しており、そもそも国内の規制のみで十分に対応するのは不可能だろう」との見方を示した上で、親子鑑定の利用者にこう訴える。

 「血縁がなかったことが判明したときはもちろん、親子と証明された場合にも、関係を疑い内緒で鑑定をした事実は家族に大きな影響を与える。人生を左右される子供の存在を置き去りにしていませんか。鑑定後の生活に、覚悟はありますか」

参照:産経新聞

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