2014年1月21日火曜日

もめない遺言を親に書いてもらう方法

 遺族の財産争いを避けるために「遺言を書くべき」とは、よくいわれる。しかし、実際に書いている人は、まだ少ない。書いていたとしても、形式が整っておらず無効になってしまうケースも少なくない。また、親の思いが遺言でうまく伝わらず、かえって遺族がもめてしまうこともある。

  これから財産を受け継ぐ子どもの立場からすれば、親に「もめない遺言」をいかに書いてもらうかが重要になってくる。

■もめる遺言の典型は遺留分の侵害

 では、「もめない遺言」とは、どんなものか、実際に見てみよう。

 まず、遺言によって何ができるのかを確認する。簡単にいえば、相続人の「誰に」「何を」相続させるのか、親の意思で決められるということだ。たとえば、「自宅の土地と建物は、同居している長男に残す」「大切な宝石は長女に持っていてほしい」など、自分の財産をどのように分けるか、決めることが可能になる。

 最後まで親の面倒を見てくれた次男に長男より多くの財産を残したいなど、相続分を多く指定することもできる。それ以外にも、表のように、遺産分割において親の意思を反映させることができるのが遺言ということになる。

 遺言がなければ、相続人全員で遺産分割協議を行わなければならない。相続財産がどこに、どの程度あるのか、はっきりわからない場合もあるだろうし、相続人の数さえ、何人なのかわからないこともある。それらをひとつひとつ解決していくのは、相続人にとって大きな負担だ。時間と労力の無駄を省く意味でも遺言は有効。遺言があれば、遺産分割協議をせずに遺産分割が可能になる。

 しかし遺言によって、逆に相続人がもめてしまうこともある。典型的なのは、遺留分を侵害する遺言を書いてしまったケース。

 遺留分とは、遺言でも侵すことのできない最低保証の相続分だ。遺言を書くときには、少なくとも遺留分を侵さないようにする必要がある。

 また、遺言には主に3種類の方式がある。それぞれにメリット・デメリットがあるので、作成する前に十分検討したい。せっかく書いた遺言が無駄にならないように、形式要件に気をつけたい。

 「親に遺言を書いてほしいなどとは頼めない」という人も多いだろう。正月やお盆など家族が集まったときに、それとなく話題にしてみてはどうか。

■もめない遺言書の書き方

 ●遺言書3つのタイプ

 1.自筆証書遺言
――紙とペンと印鑑があればどこでも簡単に作成できる遺言。証人が不要なため1人で作成可能。遺言内容は秘密にできる。ただ、要件を満たさず無効になる危険性も。

 2.公正証書遺言
――もっとも安心で確実な遺言。公証人が作成するので、自分で書く必要がない。公証人が要件を確認してくれるので、自筆証書遺言のような不備はおきないので安心。

 3.秘密証書遺言
――遺言の内容を、遺言者以外に知られず作成できる。手続きが煩雑なわりには、確実性がなく、結局は公証人による認証の費用がかかるため、あまり利用されない。

 ●自筆証書遺言の記載例

 (1)タイトル

 「遺言書」と書く。

 (2)相続させる財産

 原則「相続させる」という言葉を使う。「遺贈」と言う言葉を使うと、不動産の移転登記などで手続きが面倒になる可能性がある。また、財産の記載漏れがあると、その分の遺産分割を相続人が話し合わなくてはならなくなり、もめごとのタネになるので、事前に財産リストを作っておくといい。

 (3)予備的遺言

 遺言者よりも相続人が先に死亡した場合には、その分の財産を誰に相続させるかを遺言書に記載しておいてほうがいい。

 (4)付言事項

 法的な効力はないが、遺言の動機、心情、財産配分の理由、相続人等に対する希望や感謝の言葉などを書くことができる。子どもへの感謝の気持ちや財産配分の理由などを書くことで、相続人間の争いごとを防ぐことができる。

  ●遺留分を侵害する

 遺言を書くときには、遺留分を侵害しないことが基本。もし侵害する遺言を書く場合には、相続開始前に遺留分の放棄を依頼することも可能。また、生前に結婚資金の援助をしたり、事業を興すための資金援助をしている場合には、その分を差し引いて計算することもできる。

 ●遺言執行者がいない

 遺言執行者とは、遺言どおりに実現してくれる人のこと。相続人の廃除の申し立てや、認知の届け出など遺言執行者にしかできないこともある。遺言執行者は必須ではないが、スムーズに遺言を執行するためには、弁護士など第三者である専門家に依頼するほうが安心だ。

 ●親と同居していた子どもに有利な内容

 親と同居していた子どもに、より多くの財産を残す遺言を書くケースは多い。面倒を見てくれた子どもに多めに財産を残したいという気持ちの表れであろうが、他の相続人が異議を唱えるケースも。そのような遺言を書くなら、配分の理由を付言事項に必ず書いておきたい。

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東京弁護士法律事務所 代表パートナー、弁護士・税理士 長谷川裕雅
早稲田大学卒業後、朝日新聞記者に。その後、弁護士に転身。著書『磯野家の相続』(すばる舎)は、相続関連の図書としては異例の大ヒット。テレビ、雑誌などの出演多数。
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