2014年11月14日金曜日

<検索サイト>「忘れられる権利」、どこまで

 ◇削除求める裁判手続きが増加、「表現の自由を制約」の指摘も

 インターネットの検索サイトに、検索結果を削除するよう求める裁判手続きが増加している。欧州ではネット上の個人情報を一定期間の経過後に消去できる「忘れられる権利」が定着。日本でも先月、検索結果の削除を命じる仮処分決定が出た。ただ、情報を瞬時に抽出する検索サイトに「過去の事実」の削除を課すことは、知る権利や表現の自由を脅かしかねない。検索サイト側は難しい対応を迫られており、今後の司法判断に注目が集まっている。

  東京地裁では、自分の名前を検索すると過去の逮捕歴が表示されるとして、男性が米グーグル社に検索結果の削除を求める訴訟を起こしている。別の仮処分で地裁は10月、犯罪を連想させる事実の表示の削除を命じる決定を出したが、訴訟で認められた例はない。

 男性側は「過去の犯罪歴をみだりに公表されない権利」を主張し「目当ての情報を探す検索サイトの運営者も、一般のサイト管理者と同様にネット上に情報を流通させており、削除義務は免れない」としている。代理人弁護士は「時間が経過し、事件を知らせる必要性は低下している。検索サイトにより平穏な生活が侵害される状況は是正されるべきだ」と指摘する。

 これに対しグーグル側は、検索結果は、入力されたキーワードとの関連性を機械的に表示しているだけだと主張。「どの情報も平等に扱っており、個々の削除依頼の是非を法的に判断するのは困難。削除を認めれば、表現の自由への重大な制約になる」と反論し、全面的に争っている。

 関係者によると、グーグルはあからさまな中傷や事実無根の投稿は任意で削除に応じるが、過去の犯罪や不法行為に関する情報の削除は「知る権利を重視する立場から安易に応じられない」とのスタンスという。

 ネット上のプライバシー侵害や名誉毀損(きそん)を巡っては近年、裁判手続きで救済を求める動きが強まっている。一度ネット上に書き込まれた投稿は瞬く間に拡散する。海外のサーバーを経由するとサイト管理者が特定できなくなることもある。完全消去が容易ではないことから、入れ墨に例えて「デジタルタトゥー」とも呼ばれる。最後の手段として、検索サイトに削除を求めるケースも多いようだ。

 過去の事件の被告を実名で記した書籍を巡る訴訟で最高裁は1994年、「前科などの事実を公表されない利益が、公表される利益を上回る場合に、公表は違法となる」との判断を示している。ベテラン民事裁判官は「ネット上のプライバシー侵害などを巡る争いも、これまでと同じ枠組みで判断されるだろう」とした上で、「ただし事例の積み上げは発展途上。削除を認めた仮処分決定が、司法判断として定着するかは分からない」と指摘する。

 ◇ヤフー、有識者会議を設置し検討

 ネット上の情報の削除を求める人が増える中、ヤフーは検索結果の表示のあり方を検討する有識者会議を設置した。現在は原則として検索結果の削除に応じず、検索先として表示されるサイトの管理者に要請するよう促してきたが、専門家の意見を踏まえた上で会社としての方針を示すことにしている。

 特定の情報を検索結果から恣意(しい)的に削除すると、検索サービスの中立性や信頼性に影響を及ぼす恐れがある。個人から検索結果の削除を求められた場合、情報の正誤が分からず、プライバシーを侵害しているかも判断できないため、これまでは「違法行為などを除いて削除すべきかは司法判断に委ねてきた」(広報担当者)という。

 有識者会議は法律の専門家5人で構成。民法が専門の内田貴・東大名誉教授が委員長を務める。表現の自由や知る権利とプライバシー保護とのバランスを踏まえ、どのような場合に削除に応じるべきかなどについて議論を重ね、来年3月までに結果を公表する。

 欧州連合(EU)の司法裁判所は今年5月、個人に関する情報が事実だったとしても、時間の経過により不適切になっている場合に、検索結果の削除が認められるという判断を示した。「忘れられる権利」を認めたと言われる。

 一方で、情報政策に詳しい生貝(いけがい)直人・東大大学院特任講師は「どの情報を削除するかという線引きは難しい。削除に関する基本的な考え方を示したうえで、利用者の意見を聞きながら、継続的に議論していくことが必要だ」と指摘している。

参照:毎日新聞

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