2015年1月29日木曜日

「ミニ保険」コンビニ感覚で多様化 独り暮らし高齢者に安心、契約好調

 保険金額が少なく保険期間も短いことから「ミニ保険」とも呼ばれる少額短期保険の多様化が進んでいる。ペットの治療費の補償や通常の医療保険には加入できない疾病を持つ患者向けなど先行して投入されてきた保険に加え、少額短期保険各社は独り暮らしの高齢者や障害を持つ子供たちの保護者を対象にした商品などを開発。ニッチな需要に応えて素早く商品を開発する機動力が受け入れられ、コンビニエンスストアのような身近な存在として保有契約件数、収入保険料とも右肩上がりだ。

  「安い保険料に弁護士費用も補償してくれる。こんな保険がまさに必要だった。特別支援学級を持つ全国の校長に存在を知ってもらいたい」。全国特別支援学級設置学校長協会の副会長を務める調布市立調和小学校(東京都)の山中ともえ校長は、ぜんち共済(同千代田区)が5日に発売した「ぜんちのこども傷害保険」を、もろ手を挙げて歓迎する。学校の内外を問わずに誤って他人を傷つけたり、物を壊したりしたときに必要な費用に加え、子供を虐待の被害から守るための弁護士費用もカバーする内容だ。

 障害を持つ子供を普通の学校に通わせたい親にとって心配なのは、子供が自分の意思をうまく伝えられなかったり、環境の変化に対応できないときなどに起こす突発行動。ただ、損害保険の個人賠償責任保険だと「障害を理由に補償が支払われないケースが増えてきている」という。ぜんち共済の保険に加入すれば、いざというときの経済的負担が軽減される。

 知的・発達障害者向けの保険商品を専門に扱う同社は、既存商品の「あんしん保険」から病気保障を外し、加入者の負担を軽減するため同社初の月払い(月1100円)も導入して、この商品を設計した。榎本重秋社長は「(障害を持つ子供の)将来の備えも必要なので、負担感のない手軽な保険料で大きな安心が得られることが最大のニーズと分かった。病気リスクが少ない学齢期は賠償事故や権利擁護が何よりも重要となる」と判断したという。

 少子化で児童・生徒数が減少する一方、自立や社会参加に向けた特別支援教育の充実が図られ、特別支援学級に通う子供はこの10年間で倍増した。山中校長は今月29日から京都で開かれる同協会の全国大会の会場に、ぜんち共済のパンフレットを置き、商品の認知度向上を手助けするという。「われわれは『オリジナル保険を創る』をコンセプトに社会性のある商品を開発してきた」

 アイアル少額短期保険(東京都中央区)は、安藤克行社長がこう言い切るように独自商品を数多くそろえる。多くは顧客の声に応じたものだ。賃貸住宅オーナー向けの保険「無縁社会のお守り」もその一つ。高齢者の孤独死に直面した不動産関係者から「こんな保険はないかな」という相談をきっかけに、賃貸住宅のオーナーや管理会社に事情を聴くと、入居者の孤独死で生じる家賃の回収や遺品整理、消臭・清掃などの費用で困っていることが判明。孤独死という社会問題に応えるため、家賃と原状回復費用を補償する保険を開発した。安藤社長は「ニーズがあれば保険は成り立つ。大手保険会社ではなく少額短期保険が新たなリスクの担い手になれる」と強調する。

 全ての人のニーズを対象に商品開発に取り組む大手とは異なり、小規模経営の少額短期保険は需要の少ないニッチ市場でも、時流に乗った商品を提供できる身軽さも生かして採算に合う商品を生み出せる。気軽に加入できることもあり、2014年9月末時点の契約件数は668万と1年前に比べて約16%増えた。

 結婚をせずに生涯独身の人が増えるなどライフスタイルの変化を反映し、人生の最期を準備する「終活」向けの保険として開発された「葬儀保険」も契約を伸ばしている。遺族に財産を残すためではなく、自分の葬儀費用を捻出する保険だ。NP少額短期保険(同千代田区)が扱う「葬儀費用あんしんプラン」は、審査や病気などの告知不要で加入できる。倉田琢自社長は「葬儀のために使う趣旨に沿い、保険金の支払いは恐らく業界で最速。大手が避けてきた分野を手掛け『保険難民』を救いたい」とアピールする。

 葬儀そのものを簡素化する傾向がある一方、「お金がないから」という理由で葬儀を行わなかったり、通夜や告別式などを行わない直葬や家族葬で対応する遺族も増えていることも、葬儀保険が伸びる背景にある。

 少額短期保険は2006年の保険業法改正で登場。保険期間は2年以内と短く、保険金額も1000万円以下と少ない。「ニーズがあるのに存在しなかった保険を自分たちが提供しよう」という参入各社のチャレンジ精神が新商品を生み、ペット保険や事故を補償する自転車保険などで顧客を取り込んできた。

 一方で、ニッチ市場をターゲットとしているため知名度が依然低いのも事実。新商品は財務局への届け出で済むという特性を生かし、社会問題にも素早く対応できる保険として認知度向上に取り組んできたが、多様化・高度化する顧客のニーズにどこまで応えられるかが、さらなる成長の鍵を握りそうだ。

参照:SankeiBiz