「責任を認めてほしい」という遺族の思いは、時効の壁に阻まれた。子どもや高齢者11人が犠牲になった明石歩道橋事故から11年7カ月。4度の不起訴から一転、業務上過失致死傷罪で強制起訴された元兵庫県警明石署副署長、榊和晄(さかき・かずあき)被告(66)に対する20日の神戸地裁判決は、公訴時効の成立を認め、被告の刑事責任を問わなかった。「過失はない」と主張してきた榊元副署長は主文を聞いても硬い表情のまま。裁判を実現させ、傍聴に通い続けた遺族は「悔しい。納得できない」と無念さをにじませた。
午前10時前、スーツにネクタイ姿の榊元副署長は緊張した様子で入廷。指定弁護士の後ろに座る遺族らに一礼し、証言台の前に立った。「被告人を免訴する」。奥田哲也裁判長の声が法廷に響くと、元副署長は前を見すえたまま聴き入り、硬い表情で弁護士の横の席に戻った。時折額や目元を手でぬぐいながら判決理由をメモにとっていた。
これまでの公判で、榊元副署長は「できることはやっており、過失はなかった」と責任を否定する一方で、「今も深夜に目が覚め、亡くなられた11人の悲鳴が聞こえるように感じることがある」などと心境を吐露し、陳謝した。被害者参加制度で被告人質問した遺族に対して「悔いても悔やみきれない。小さな子どもを見ると、(亡くなった)お子さんもこんなかわいい目をしていたんだろうなと思う」と声を震わせる場面もあった。
「免訴」が言い渡された瞬間、遺族らは険しい表情を浮かべた。次男智仁ちゃん(当時2歳)を亡くした下村誠治さん(54)はうなずきながら静かにメモを取った。次女優衣菜さん(同8歳)を亡くした三木清さん(44)は元副署長をじっと見すえ、首をかしげるなど納得いかない様子を見せた。
昼の休廷中に取材に応じた下村さんは「免訴はあり得ると思っていた。とにかく最後まで判決を聞きたい」と話した。三木さんは「まさか、悔しい、の一言。元副署長が(現場責任者と)共犯関係にないというのは納得がいかない」とため息をついた。
遺族にとって、11年7カ月は苦難の連続だった。下村さんらは警察幹部に最大の責任があると考え、検察審査会に不起訴不当を申し立てた。全国の事故遺族らとともに被害者支援などを訴える活動も行い、被害者参加制度や強制起訴の導入につながった。
ようやく実現した裁判。下村さんは、元副署長に「私たち遺族は怒りや悲しみだけでここまで来たわけじゃない。原因を知りたくて来た」と初めて語りかけた。75歳の母親を亡くした男性は「元副署長は自己保身だけを考えている。責任回避の姿勢こそが事件の原因」などと厳しく非難していた。
【ことば】強制起訴制度
検察が不起訴にした事件で、検察審査会が起訴すべきだと2回議決すれば、裁判所指定の弁護士が強制的に起訴する制度。国民の司法参加の一環として09年5月に導入された。検審は、くじで選ばれた市民11人で構成する。被害者らの申し立てを受け、8人以上の賛成で起訴すべきだと議決すると、まず検察が再捜査する。さらに不起訴となっても、検審が再審査して2回目の起訴議決をすれば、強制起訴となる。
参照:毎日新聞
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