危険運転を繰り返す自転車利用者に警察庁は14日、道路交通法を改正し講習を義務づける方針を打ち出した。関係者からは事故減少への期待とともに、自動車と同じような行政処分が必要との意見も上がる。一方、道交法の改正試案では病気の虚偽申告に対する罰則の新設や無免許運転の罰則強化なども盛られたが、実効性を疑問視する見方もある。
■講習義務化
警察庁の有識者懇談会メンバーとして交通ルールの徹底を巡り協議してきた三井住友トラスト基礎研究所の古倉宗治氏は、講習義務づけを「ルール教育の必要性が認知され、制度の整備も進むのでは」と歓迎する。
自転車事故は01年の17万件から11年は14万件に減ったが、事故全体に占める割合は18.5%から20.8%に上昇。事故に関わった自転車利用者のうち3分の2に、前方不注視や一時不停止などの法令違反があった。警察庁も「交通事故の原因の多くが法令違反と考えられる」とする。
講習は、その内容が重要になる。違反を繰り返す人に信号順守などを説くだけでは意味がない。古倉氏は「懇談会でも内容までは議論されなかった。規範意識を高める教育が必要だ」と指摘する。
自転車政策を提言するNPO法人・自転車活用推進研究会の小林成基理事長は、法改正を更に進め、車のような反則金制度(行政処分)の創設を訴える。現行では自転車の交通違反はいきなり刑事処分につながり、前科になる。
■持病届け出制度
試案では、運転に影響を及ぼす症状のある患者について、免許取得・更新時の虚偽申告を罰し、医師が届け出る制度を創設することも掲げた。
現行法は、運転に影響を及ぼす恐れのある病名として、統合失調症、てんかん、そううつ病、認知症、アルコール依存症などを挙げ、免許取得・更新時に症状の自己申告を求めている。だが、警察庁によると、07~11年に事故を起こしたてんかん患者のうち、69%が申告をしていなかった。
申告制度には限界があるとの観点から、警察庁の有識者会議の提言を受け、今回、届け出制度の創設に踏み切った。医師が「患者の症状を行政に通報すべきだ」と考えても、守秘義務などの制約からためらわざるを得ないのが現状で、法制化によって通報が促進されると期待されている。
しかし、届け出は最終的には医師の任意の判断。警察庁は、関係学会と病名ごとに一定の基準を設けた指針の策定を検討する。医師と患者の信頼関係を損なわないよう配慮し、実効性を担保するとしている。
◇「講習、希望者にも」自転車愛好家の木内秀行弁護士
自転車愛好家で弁護士会活動を通じて国に安全対策を提言してきた木内秀行弁護士(47)は、危険運転を繰り返す自転車利用者への講習義務づけを「自転車のルール啓発に有効な一手」と評価する。
生活の足として自転車を使う木内弁護士は、ひやりとする場面に度々遭った。速度を落とさず向かってきたり、後ろを見ず急に方向転換したり、暗闇から飛び出してきたり。東日本大震災以降、自転車通勤する「ツーキニスト」が増えたが、ルールを分かっていない人も目に付く。
警察庁は講習対象者の例として信号無視の繰り返しなどを挙げたが、木内さんは(1)右側通行(2)携帯電話を使いながらの運転(3)無灯火--を重ねる人も講習が必要だと言う。
所属する第二東京弁護士会で昨年1月、国土交通省と警察庁宛ての意見書をまとめた。自分の経験も踏まえ、自転車レーン設置や歩道走行の原則禁止などとともに、ルールの講習会開催を要望した。
自転車は免許制度がなく、違反に対する法的措置は刑事罰につながる赤切符(交通切符)のみ。講習義務づけはルール順守を図る制度の不十分さを補完するとみる。「悪質違反者だけでなく、希望する人も受けられる講習にしてはどうか」とも提案した。
参照:毎日新聞
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