●100年ぶりに改正された遺失物法
落し物を拾ったら届ける。これは日本では誰しもが知っている1つの社会規範ではないだろうか。
届けられた落し物は遺失物法と呼ばれる法律に基づき、持ち主の元へと返却される。そんな遺失物法が平成19年に100年ぶりに改正された。
12月10日から改正遺失物法がスタートします:政府広報オンライン
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/200710/2.html
年々増加する遺失物の増加に合わせて、保管期限の短縮、公共交通機関等に遺失物管理に関する権限を大幅に認める特定占有施設制度の導入、インターネットによる遺失物情報の公開など遺失物対応の効率化を目論んだ法改正ではあったが、遺失物の増加は留まるところを知らず、平成22年度に日本全国の警察に届けられた拾得届の数は1,900万件を超えて過去最高の数字を記録した。
警察に数多く届く遺失物の中でも、年々増加の一途をたどるのは携帯電話類である。例えば、東京都内を管轄する警視庁のデータによると、都内で警察に届けられた携帯電話類の遺失届数は平成23年度では21万件以上にものぼる。
●急増するスマートフォンの落とし物
その携帯電話類の中でもここ数年で特に激増したのが「スマートフォン」だという。スマートフォンの落し物が従来の携帯電話と比べて多い理由としては、スマートフォンではストラップをつけなくなったためにすべり落ちやすくなったという他に、スマートフォンが多数のコンテンツや機能を持ち、カバンやポケットから出し入れして使用する頻度が増加していることがあげられている。
小さなパソコンと称されるスマートフォンは従来のフィーチャーフォンよりも、多数情報を有するため紛失時の情報流出リスクも高い。例えば、EvernoteやDropBoxに代表されるクラウドサービスでは、外出先でも自宅や職場のPCに保管したデータを変わらずスマートフォンで閲覧できる利便性がある一方で、スマートフォンの紛失が、そのようなデータ全ての流失にもつながりかねない。
こうした世相を反映してか、スマートフォンの紛失に対する危機意識も個人・法人を問わず高まっている。独立行政法人情報処理推進機構が発表した『2011年度情報セキュリティの脅威に対する意識調査』によると「スマートフォン利用時の不安要素」の順位の1位は「スマートフォン本体の盗難・紛失(61.4% 前年比6.9%増)とあり、セキュリティ意識・タブレット端末の紛失対策への危機意識が高まっている事がうかがえる。
「2011年度 情報セキュリティの脅威に対する意識調査」
http://www.ipa.go.jp/security/fy23/reports/ishiki/documents/2011_ishiki_report.pdf
もちろん法人でのスマートフォンやタブレット端末の利用では、Mobile Device Management(MDM)と呼ばれる帯電話端末を集中管理するシステムが各社によって導入され、リモートワイプ機能(遠隔操作による端末のデータ消去、ロック機能)によって、紛失時のセキュリティ対策も万全であるとなされている。
●リモートワイプが成功したのは7%
しかしながら米国のジュニパーネットワークスグローバル脅威センターが発表した『モバイル脅威に関するレポート2010、2011』によると、スマートフォンの紛失事故発生時にリモートワイプを実施した際にリモートワイプが成功しデータをロック・消去できたケースはわずか7%、位置情報取得によって発見されたと推測されるケースは23%、リモートワイプが失敗したと推測されるケースは、なんと70%にも達するそうである。このような事態が発生する背景には、リモートワイプ機能が端末の電源が入っている状況でのみ機能するという物理的な制約があるからである。
ジュニパーネットワークス、モバイル端末のセキュリティ動向に関する2011年度調査結果を発表
http://www.juniper.net/jp/jp/company/press-center/press-releases/2012/pr_2012_02_16-11_00.html
米国のコンピュータセキュリティ企業のルックアウト・モバイル・セキュリティ社の統計によると、人々が最もスマートフォン紛失しやすい時間帯は夜間の21時から深夜の2時にかけてであり、このような夜間の紛失では、朝に紛失に気づいたときにはすでに端末のバッテリーが切れており、あらゆるリモートワイプ機能が使えないという事例が多数発生しているのだ。
また、遺失物の7割は、まず最初に警察ではなく公共交通機関や商業施設の遺失物窓口に届けられる。その場所で数日程度保管した後警察に引き渡され、警察より通信キャリア等を通じて持ち主へ連絡が届くようになっている。
公共交通機関や商業施設ではトラブルを避けるために、携帯電話類に関しては発見後速やかに電源を切って保管するようにマニュアルが整備されている施設も多い。そのため紛失時に、拾得者の善意によって端末が拾われた場合であっても手元に戻ってくるまでおよそ、1週間から2週間くらいが経過してしまうこともある。
日常的に使用するスマートフォンのようなデバイスにおいて、返還までこれだけの時間が経ってしまうと、生活や業務への支障がでるだけでなく、紛失による精神的なプレッシャーも多大なものとなる。
スマートフォンのような重要度が高いデバイスの普及や遺失物の増加により、今まで善意で成立していた遺失物対応へのコストの増加も無視できないものとなり今後大きな方向転換を迫られるのではないだろうか。
●遺失物管理のコストは誰が負担するのか
例えば明治時代の日本の法体系の模範とされたドイツでは、遺失物に関して、警察から地方行政に権限委譲が進み負担の軽減化が進んでいる。10ユーロ未満の価額の遺失物に関しては、遺失物の提出は義務づけられておらず、10ユーロ超の価額を有する遺失物に関しては、遺失者が返還時に価額の10%程度の手数料を払い引き取る制度が導入されている。
今後、遺失物への対応コストが増加していく中で、遺失物の管理コストを補うために、民間、公的機関を問わず手数料を支払い遺失物を引き取るのが一般化する時代もくるかもしれない。
参照:ScanNetSecurity
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