2012年10月7日日曜日

未成年者に対する刑期を延長する法改正案について、弁護士の賛否は

今年9月、滝実法務大臣が少年法改正案を法制審議会に諮問した。

今回の改正案の内容は、「犯行時に18歳未満だった少年の無期刑について、10~15年の有期刑に軽くできるとする現行規定の上限を15年から20年に引き上げる」、および「判決時に20歳未満の少年に3年以上の有期刑を言い渡す場合、短期の上限を5年から10年に、長期の上限を10年から15年に引き上げる」ものとされている。

少年法については改正や厳罰化を求める国民の声も少なくなく、これまでも未成年による犯罪事件がメディアなどを通じて報道されるたびに、広く物議を醸してきた。

昨今、世論が加害者に対する厳罰化に傾いているという見方もあるが、はたして今回の改正案は適正なものといえるのだろうか。弁護士ドットコムに登録する弁護士に、未成年者に対する刑期を延長する今回の改正案への賛否とその理由について、意見を聞いてみた。

●約5割の弁護士は「反対」 統計上では少年犯罪は減少している

アンケートの結果、賛否について回答があった弁護士のうち、約5割は反対の立場を示した。その反対の理由として最も多く挙げられたのは、

「戦後の少年犯罪の統計を見ると、全体のトレンドとしては減少傾向にあります。個別事案の悪質さはともかく、少年事件全体として見れば、マスコミが報道するような『少年犯罪が激増・凶悪化』は進んでいるとはいえないかと思います。」(古金千明弁護士)

というように、実際には少年犯罪の発生件数は減っているため、厳罰化の必要性に疑問を呈するものであった。

●「少年の健全育成」という少年法の目的から、厳罰化は避けるべきという意見

それ以外の反対理由としては、

「一度、刑罰を受けますと、社会復帰してから立ち直るのに、相当の努力がいる社会になっています。少年時代の加罰は、できるだけ避ける方向がよろしいでしょう。その意味で、18歳への切り下げや、刑罰の重罰化は、できるだけ避けたいものです。」(居林次雄弁護士)

「非行を犯す少年たちの多くは少年法が甘いから非行に及ぶのではなかろう。幼いころからの虐待や被害体験・発達障害という問題を抱え規範意識を確立し自我に目覚める機会もなく自己をコントロールできないで非行に及ぶ少年が多いのではなかろうか。少年法は『少年の健全育成』を目的とする法律である。非行を犯した少年には可能な限り刑罰ではなく教育をもって臨むという保護主義の理念を忘れてはいけないと思う。」(森田英樹弁護士)

「18歳以下の少年が、成人と同じような判断能力を有しているか疑問であり、他人に影響されやすい傾向があると思われる。だから、成人より刑を軽くしているのであり、立法当初も、どのくらいの刑罰が妥当か考えて決めているであろう。近時刑罰を重くすべきという世論が多いが、法律家としては、少年法を改正すべきという必要性を見いだすことはできない。」(近藤公人弁護士)

というように、少年法の立法趣旨から、厳罰化は避けるべきだとする意見が上げられた。

●約3割の弁護士は「賛成」 現在の少年法には不備がある?

一方、回答した弁護士のうち約3割を占めた賛成の立場からは、

「今回の見直しは厳罰化のためのものではなく、法の不備の見直しにすぎないので、やっと手がつけられたという印象が強く、当然の改正案だと考えます。(~中略~)不定期刑の上限が見直されなかったため、いわゆる重い事件に対応する刑を科すことができなかったのです。こうした法の不備を何度か現場で突きつけられました。」(川崎政宏弁護士)

「現行少年法は、無期懲役を減刑した場合の、裁判官の宣告刑の範囲を不当に狭めた規定となっています。特に、有期懲役刑の場合に懲役20年まで宣告できるのに、無期懲役を減刑した場合に15年しか選択できないのは、明らかに法律の不備・過誤というべきです。」(荒木樹弁護士)

と、今回の改正案は単なる厳罰化ではなく、現行の少年法の不備を正すものだと評価する意見が上げられた。

●メディアによる報道が世論に影響を与えているという意見も

また、反対派の弁護士から指摘されたように、少年犯罪の発生件数は減少しているにも関わらず、世論が厳罰化に傾いているのは、

「ただ単に『被害者保護』という名目での厳罰化が先走りしているように思えてならない。本当の被害者保護は、加害者を厳罰に処して復讐心を満足させることではないはずなのに、この国ではそうなってしまっている。一部メディアの偏向報道、大衆迎合する政治家、そして、残念ながら近視眼的な主張に組みする一部の弁護士が、刑事司法のあり方を歪めているように思える。」(大賀浩一弁護士)

として、一部メディアの報道のあり方などに疑問を呈する意見もあった。

今回の改正法案は来年の通常国会への提出を目指していると報じられており、実際に審議が行なわれることになれば大きく関心を集めることになりそうだ。

参照:弁護士ドットコム

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