2012年10月31日水曜日
JASRAC、音事協、レコード会社…誰もオイシクない!?違法ダウンロード刑事罰化の真相
10月頭より施行となった、いわゆる違法ダウンロード刑事罰化。ネットユーザーからは大きな反発とおびえの声が上がっているが、そもそも誰のどのような目的によって、この改正著作権法は成立したのか? そして、下降線をたどる音楽産業は今後どうなってしまうのか?
10月1日、いわゆる違法ダウンロード刑事罰化が施行された。正確には、改正著作権法119条3項の「私的違法ダウンロードの罰則化」のことだが、違法にアップロードされた音楽・映像をそうと知りながらダウンロードをした者に対して、2年以下の懲役または200万円以下の罰金、あるいはその双方が科されることになった。9月10日には「STOP!違法ダウンロード広報委員会」が設立されたが、メジャー・レーベルを取りまとめる日本レコード協会をはじめ、音楽・芸能事務所が加盟する日本音楽事業者協会、作品の使用許諾や使用料の分配などを通して著作権を管理するJASRAC(日本音楽著作権協会)……と、構成団体のほとんどが音楽関係の権利者団体。IFPI(国際レコード産業連盟)が「全世界でダウンロードされた音楽ファイルのうち、合法のものは5%のみ」と発表するように、世界的に違法ダウンロードは横行しているが、それこそが日本の音楽業界の低迷と著作権や著作隣接権の侵害を招いていると見なす彼らの意図が、刑事罰化の背景には透けて見える。だがネットユーザーからの反発は大きく、今年6月の法案可決時には国際的ハッカー集団のアノニマスが日本政府やレコード協会のサイトへサイバー攻撃を仕掛ける事件も。そんな刑事罰化は結局、誰にとって得な話なのか? そして、低迷する日本の音楽産業に何をもたらすのか?まずは法案成立までの経緯を整理しよう。
「違法にアップロードされた音楽・映像をダウンロードする行為が違法になった2010年施行のいわゆる『ダウンロード違法化』は、通常の著作権法改正と同様に文化庁内の文化審議会で合意を得てから内閣に通しました。ただ、“刑事罰はナシ”という理由もあって文化審議会をギリギリ通過した法案であり、それを数年後に“刑事罰アリ”に改正するのが難しいと考えた一部権利者は、文化審議会を通さず、国会議員にロビー活動を行い、議員立法という形で秘密裏に今回の改正法を進めた。これによって多くのネットユーザーから批判が巻き起こりました」
こう話すのは、著作権に詳しい骨董通り法律事務所の福井健策弁護士。CDの売り上げが98年のピークから約3分の1に落ち込んだ現在、その埋め合わせをすると期待されていた着うたや着メロの売り上げは上げ止まり、iTunesも近年は横ばいだという。そうした状況と違法ダウンロードの蔓延に対する危機感から、レコード協会は強硬手段に踏み切ったのだと思われる。とはいえ刑事罰化の後、音楽産業が回復しなければ意味はないが……。音楽ライターの磯部涼氏は、次のように分析する。
「日本の音楽市場の売り上げは11年上半期、アメリカを抜き、全世界で1位になった。しかし、依然減少傾向ですし、背景には日本が今も単価の高いCD大国であると同時に、他国と比べてネット配信が遅れていることがあります。そんな国で違法ダウンロードへの締め付けを強めただけでは、業界の回復は望めません」
■JASRACの真意とアメリカの要求
一方、ネットユーザーにとっては刑事罰を科せられる可能性も出てきたわけだが、音楽の聴き方が何か変わっていくのだろうか?
「YouTubeやニコニコ動画などを通じて、若年層はネット上でタダで音楽を聴くことが日常化していますよね。違法ダウンロードをしたその世代の人が、見せしめで逮捕されることはあり得ます。そうなると、“ネットの音楽=危険”というイメージがユーザーの間に刷り込まれ、若い世代の音楽離れが始まるかもしれない。それは、音楽業界にとっても望ましいことではないでしょう」(磯部氏)
こうした懸念もあり、ネット上では刑事罰化への反発が大きいのだろうが、その矛先はJASRACに向けられることが多い。この理由について、『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』(翔泳社)の著者で、下記の違法ダウンロード史を作成したばるぼら氏はこう語る。
「01年頃、既存の楽曲を楽譜に起こしてアレンジしたMIDIファイルを勝手に公開していたウェブサイトを、JASRACは非営利の個人だろうと問答無用で課税対象にし、どんどん潰していきました。そのときに、ネット上のJASRAC嫌悪が始まったといわれています。JASRAC未登録の曲のMP3ファイルがプロバイダの自主規制でサイトから消されることもありました。その後も新しい音楽サービスが始まるたびに削除依頼などを続けたことで、ユーザーとの関係はより悪化。しかし今のJASRACはYouTubeやニコニコ動画、Ustreamなど20の動画サイトとブランケット契約(一定額か一定率の著作物使用料を支払えば、契約期間中、楽曲を何度も利用可能)を交わしており、ネット配信に対して不寛容なわけではありません」
だから、JASRACこそが刑事罰化の推進団体とはいえない。
「すべての団体が全面賛成かは疑問です。ユーザーにはちゃんと対価としての著作権料を払ってほしいと思う一方、作品のPRツールになり得るネットの利点とのバランスが課題」(前出・福井弁護士)
ところで、そもそも音楽の作り手がいなければ音楽産業は成立しないわけだが、刑事罰化はミュージシャンにどう響くのか?
「自分の権利を守ることに敏感な音楽家が多いのもわかります。が、地球の裏側に住んでいて数曲しか作ったことがない10代のミュージシャンを、ユーザーはネットを介して自分で発見し、コンタクトを取ることができる時代ですよね。今回の改正を推進した権利者団体やレコード会社は、本当はそんな若い作り手をすくい上げる方法を考えるべきなのに、むしろ彼らが出てくる環境を抑圧しているように感じます」(前出・磯部氏)
となると、刑事罰化は音楽をめぐる誰にとってもオイシイ話に見えないが、今回の法改正はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)とも関係すると福井弁護士は指摘。TPPといえば、アメリカが各国へ参入を呼びかけている経済協定で、物品貿易や税関について取り沙汰されることが多いが……。
「知的財産の項目にも注目すべきです。他国におけるアメリカのコンテンツ売り上げの1位は日本であり、特許と著作権使用料の輸出額は自動車や農産物を上回る9・6兆円。それを輸出産業として強化したいアメリカにとって日本のTPP参入は大きな意味があり、その条件として同国の有名なロビー団体は『すべての私的な違法ダウンロードに刑罰を科すべし』と求めています。また、アメリカがTPPで他国に要求するもののひとつが『著作権の非親告罪化』。これが実現すると、違法ダウンロードなどで著作権法を犯したユーザーを、警察は権利者の告訴なしで取り締まりが可能。これが第三者通報と合わされば、摘発数の増加もあり得ます」(福井弁護士)
■ストリーミングに移行できないワケ
そんなアメリカのもくろみもあり刑事罰化に至ったわけだが、日本がTPPへ参入すれば、非親告罪化で違法ダウンロードの逮捕者が急増する可能性も。海外のネット音楽環境に詳しく、IT系メディアのコンサルティングなどを行う榎本幹朗氏は、違法ダウンロードの取り締まりを“ムチ”とするなら、“アメ”も必要と主張する。
「違法ダウンロードが罰則化された国は日本以外にもありますが、09年の罰則化と同時期にストリーミングのフリーミアム音楽配信Spotifyが登場したのがスウェーデン。欧州各国で爆発的な人気を博し、各国の違法ダウンロードを急減させただけでなく、欧州レコード産業の売り上げを回復させつつあります」(榎本氏)
その仕組みを簡単に説明しよう。料金設定は、ベースとなる無料会員制に有料会員制を組み合わせたフリーミアムモデル制。無料会員でも216kbps(iTunesは128kbps)の高音質でストリーミングを楽しめるが、有料会員だとCDと変わらない320kbpsという音質で聴け、スマートフォンでも利用可能。収益構造としては、広告費と有料会員料金を収入とし、レコード会社に楽曲使用料を支払っている。
「毎月10時間までどんな音楽も無料で聴き放題、以降は毎月10ユーロというフリーミアム音楽配信が人気の秘訣です。ワーナー、ソニー、ユニバーサルの世界3大メジャー・レーベルが株主のため、世界中の大半の音楽をカバー。現在はイギリス、フランス、ドイツ、アメリカなど利用できる国は徐々に増え、Spotifyユーザーの4人にひとりが有料会員です」(同)
また、アメリカでは同様のフリーミアムモデルとして、ユーザー好みの楽曲ばかりをストリーミング配信するインターネット・ラジオ『Pandora Radio』が好調だ。
「スウェーデンのレコード産業は、ストリーミング売り上げがCD売り上げを超えたことで、前年比30%増の売り上げを実現しました。世界ではCDなどのパッケージ販売は縮小する一方、ダウンロードは安定成長、ストリーミングは急成長を記録し、全世界のデジタル売り上げは、あと2年でパッケージ販売を抜くといわれます」(同)
それならば、例えば日本でSpotifyが普及したら音楽業界が息を吹き返すような気もするが、海外ストリーミング・サービスを日本に導入する難しさについて榎本氏はこう述べる。
「日本にはエイベックスやキングレコードなど独自のメジャー・レーベルが多く、世界3大メジャーの勢力は大きくないので、交渉に時間がかかるのです。また、今までお世話になったCDショップを裏切れないという業界の心情も足かせに。特にソニーは、Spotifyの株主ですが、日本では子会社の楽曲配信サイト『レコチョク』や親会社のMusic Unlimitedがバッティングしています」
日本のレコード産業は、もう死期を待つばかりなのか?
「ダウンロード売り上げはシェアを取れないまま成長率が落ちており、定額制配信も長年ニッチにとどまっている。そしてSpotifyのようなストリーミングのフリーミアム音楽配信がない日本は、2年以内に危機を迎えます。しかしイギリスやスウェーデンの成功例を学んで、ある時点から急展開してくるでしょう」(榎本氏)
違法ダウンロードが蔓延する今、レコード会社や権利者団体がそれを厳しく取り締まろうとするのは、やむを得ないかもしれない。だが同時に、音楽産業に携わる人々は時代に合った新たな音楽の提供方法を考えていくことも課題だろう。
参照:サイゾー
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿