全国の弁護士の懲戒処分が昨年1年間で98件に達し、10年前から倍増したことが日本弁護士連合会(日弁連)のまとめで分かった。逮捕者が近年続出した大阪弁護士会は、倫理研修の対象会員を拡大し、不祥事防止マニュアルを作製。広島弁護士会は苦情の多い会員を懲戒請求前でも調査できるよう会則を変更した。しかし、特に不祥事が目立つ中堅やベテランの会員に限って「何を今さら」などと不祥事防止に消極的な姿勢が目立つといい、各弁護士会は苦悩を深めている。
◆競争激化が一因
大阪弁護士会は従来、新入会員のほか会員登録後満20年までは5年ごと、20年以降は10年ごとに倫理研修を義務付けてきた。しかし平成24年度に詐欺や横領などの事件で会員3人が逮捕、起訴されたことで危機感を募らせ、日弁連の方針に従い、昨年度からは登録後満3年の会員に加え、20年以降も5年ごとに研修の対象とした。
ただ、弁護士の不祥事は全国的に増加している。日弁連によると、全国の弁護士の懲戒処分は16年は49件だったが、19年には70件まで増加。翌20年はいったん60件に減ったが、以降は再び70~80件台で推移し、昨年は98件に達した。
ある法曹関係者は懲戒処分増加の背景について「全国で弁護士の数が増えて競争率が高くなり、仕事を確保できない人がお金のトラブルなどを抱えているのでは」と指摘する。
◆腰痛理由に欠席
大阪弁護士会の倫理研修はこれまで、20~30人のグループで弁護士倫理について討論させる「ゼミ形式」だったが、昨年度から「講義形式」を導入。新入会員と登録後5、10、20、30年の会員はゼミ形式とする一方、残る対象者には法科大学院教授らによる講義を受講させるようにした。研修対象者の拡大で、少人数制のゼミ形式だけでは研修が難しくなったためだ。
だが、対象者の中には「腰が痛い」「誰がわしに講義するんや」と言って研修を欠席する人もいる。研修担当者が「久しぶりの同窓会と思って来てください」となだめるなどし、出席を促しているという。
担当者の一人は「研修への欠席を不祥事の『予兆』ととらえることもできる」とする一方、「不祥事が起きやすいのは中堅からベテランの弁護士。一線を越えそうなベテランにどう言って踏みとどまらせたらいいのか…」と頭を悩ませる。
◆「危機感持って」
倫理研修とは別の取り組みも進む。同弁護士会は今年3月、「不祥事防止の手引き」を作製し、約4千人の所属会員全員に配った。
イラストを交えた「Q&A」形式で、懲戒請求を受けてからの手続きや預かり金の不返還といった懲戒処分を受ける事例を説明。業務停止となれば法律事務所の看板を撤去する必要があるなど、処分後の不利益にも言及し、心身不調の際に相談できる会員サポート窓口を紹介している。
また、広島弁護士会も4月から会則を改め、1年間に複数の市民から3回以上にわたり苦情を申し立てられた会員に対する調査権限を強化。預金通帳など資料の提出を求めることができるようにした。これまでは注意や聞き取りしかできなかったが、不祥事防止のために必要と判断した。
大阪弁護士会の鎌倉利光副会長は「依頼人らに懲戒を請求されるだけでも業務に支障が出る。日頃から危機感をもって業務にあたってほしい」と話している。
参照:産経新聞
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