2014年5月30日金曜日

<裁判員裁判>増えた「求刑超え」判決 裁判官だけの10倍

 殺人や傷害致死など8罪の裁判員裁判で、今年2月までに検察の求刑を上回る判決が42人に言い渡されていたことが最高裁の調べで分かった。全体の1.0%に過ぎないが、従来の裁判官だけの裁判の0.1%に比べ10倍となり、裁判員裁判で「求刑超え」判決が増える傾向が明らかとなった。市民感覚が反映されている証しといえそうだが、「量刑判断に幅ができれば不公平が生じかねない」と懸念する声もある。

  「被告人を懲役15年に処す」。2012年3月21日、大阪地裁。傷害致死罪に問われた岸本美杏(みき)被告(31)に対する判決に、弁護人を務める木原万樹子弁護士は「え、何で?」と耳を疑った。検察側の求刑の懲役10年を大きく上回っていたからだ。

 大阪府寝屋川市で三女(当時1歳)を暴行して死なせたとして起訴された美杏被告と夫の憲被告(30)の裁判員裁判。裁判長は「求刑は、虐待の悪質性や責任を三女の姉になすりつける両被告の態度を十分評価していない」と述べた。

 「児童虐待をどう思いますか?」。法廷で男性裁判員が被告に発した質問が、木原弁護士の耳に残っている。

 マンションに2児を放置して餓死させ、殺人罪に問われた母親の裁判員裁判が、直前に大阪地裁で開かれていた。判決は有期刑の上限に当たる懲役30年。木原弁護士は「虐待の悪印象が残り、あおりを受けた可能性もある」とみる。

 同じく懲役15年とされた憲被告の弁護人の高山巌弁護士も「職業裁判官だったら、10人中10人がこんな判決は出さない。他の同種事件と明らかに量刑が違えば、公平性を欠く」と指摘する。

 だが、判決は市民が激論を交わした末の結論でもある。岸本被告らの審理を担当した裁判員の1人は、約2カ月後にあった裁判員経験者の意見交換会で「親の虐待で子供が死んだのに、殺人より刑が軽い傷害致死で起訴された理由が分からず、量刑に一番悩んだ」と語った。殺意の有無や過去の事件とのバランス、幼子のかけがえない命が奪われた結果の間で、悩み抜いた姿がうかがえる。

 裁判員裁判で求刑超え判決を受けた被告は、傷害致死12人▽殺人8人▽強姦(ごうかん)致傷7人▽殺人未遂5人--などで全体の1.0%。同じ8罪で制度導入前の約1年間、裁判官だけの裁判が求刑超えとしたのは2人だけで全体の0.1%だった。

 岸本被告らは控訴したが、2審の大阪高裁は1審を支持した。だが最高裁は2審判決を見直す際に開かれる弁論を来月26日に行うことを決めた。量刑のバランスにどこまで配慮を示すべきか。最高裁が判断を示そうとしている。

参照:毎日新聞

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