国民が刑事裁判に参加する裁判員制度は、21日で施行から5年を迎える。2月末までに約4万8千人が裁判員や補充裁判員に選ばれた。死刑判断や長期審理にも裁判員が加わり、6千人超に判決が言い渡されるなど、国民の司法参加が進む一方、「分かりやすい審理」の実現や裁判員の心理的負担の軽減など改善に向けた課題も残されている。
最高裁のまとめによると、平成21年5月の施行から今年2月末までに、3万6027人が裁判員に、1万2318人が補充裁判員に選任された。判決が言い渡された被告の数は6392人。罪名別では、強盗致傷の1430件が最多で、1403件の殺人が続いた。
大阪地裁堺支部の元象印マホービン副社長ら殺害事件をはじめ、死刑が言い渡された被告は3月末までに21人に上る。
最高裁が昨年、裁判員経験者を対象に行ったアンケートでは、審理内容について66・6%が「分かりやすかった」とする一方、2・4%は「分かりにくかった」と回答。法廷での検察官や弁護人の印象を尋ねる質問では、双方に「証人や被告への質問の意図・内容が分かりにくかった」「話し方に問題があった」などの回答が寄せられた。
裁判員を務めた感想を経験者に聞いたところ、「非常によい経験と感じた」「よい経験と感じた」が95・2%。これに対し、全国の20歳以上を対象にした意識調査では、「あまり参加したくない」「義務であっても参加したくない」という消極的な回答が85・2%を占め、経験者と未経験者の意識のギャップが表れた。
心理的負担をめぐっては、死刑判決に関わった元裁判員の女性が昨年5月、急性ストレス障害になったとして、国に損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こした。
女性は審理で殺害現場の写真などを見ており、東京地裁などでは、こうした写真を使う場合、裁判員選任手続きの段階で候補者に予告する運用が広がっている。
また、最高裁は昨年11月以降、各地で臨床心理士を招いた研究会を開き、心理的負担の軽減についての意見交換を重ねている。
■調書依存など改善の兆し 平均評議時間は増加傾向
裁判員制度では供述調書など書面に依存した立証や審理の長期化が課題とされていたが、一部では改善の兆しも見られ始めている。
「制度が目指す法廷中心の審理が実現できていない」。最高裁は平成24年12月に公表した検証報告書でそう指摘し、裁判所、検察、弁護士の法曹三者に改善を迫った。
報告書が理由の一つに挙げたのが、自白事件で検察側が立証時間の過半数を書面の取り調べに費やしている、という状況だ。報告書は「重要な点では証人尋問の方が理解度などの点で優れている」と評価した。
最高裁のまとめでは、取り調べた証人の数の平均は、22年の2・1人から25年は2・9人、26年2月末時点では3・3人まで増加。特に、これまで調書で済まされがちだった自白事件での検察側証人は、22年の0・4人から26年2月末時点は1・1人となった。最高裁関係者は「当事者が危機感を持ったことで、改善につながりつつある」とみる。
一方、審理の長期化の一因とされた公判前整理手続きの平均期間をみると、22年の5・4カ月から、24年は7・0カ月まで延びた後、26年2月末時点で6・9カ月と、やや短縮した。
平均評議時間は一貫して増加傾向にあり、22年の504・4分から、25年は630・1分、26年2月末時点は757・4分となっている。
■死刑囚に直接質問も 「目の前にすると普通の人」
オウム真理教による一連の事件では初の裁判員裁判となった元幹部、平田信被告(49)=1審有罪、控訴中=の東京地裁での公判では、異例となる確定死刑囚への証人尋問が行われ、裁判員らが直接質問する場面もあった。
目黒公証役場事務長拉致など3事件に問われた平田被告の公判に出廷したのは、いずれも元幹部の中川智正(51)、井上嘉浩(44)、小池(旧姓・林)泰男(56)の各死刑囚。指揮役などとして事件に関わったとされる。
死刑囚の尋問をめぐっては、当初、検察側は死刑囚の心情への影響や警備上の問題を理由に、裁判官らが収容先の東京拘置所に出張する非公開の尋問を求めたが、地裁が法廷での尋問を決めた。
判決後、裁判員経験者らからは「目の前にすると普通の人」「死刑反対論者ではないが、死は怖いのだろうかとか考えさせられた」などの声が出た。今月8日からの菊地直子被告(42)の公判でも、死刑囚の尋問が行われる見通し。
参照:産経新聞
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