会社帰りに近所のコンビニに寄り、缶ビールとつまみを800円で買って、合計1000円札で支払いました。するとレジの店員が1万円札と勘違いしたらしく、9200円の釣り銭を手渡されました。こうした場合は、一体どう対処すべきなのでしょうか。
このうち9000円は不当利得の返還を定めた民法第703条の「不当利得」に当たります。気がついているのに「自分のものになるかもしれない」と思って黙っていると、刑法第246条1項の「詐欺罪」に問われます。間違いと認識した時点で、申告する義務が生じるからです。
気づかずに家に戻り、そこで気がつくこともあるはずです。その時点で店側に連絡して、返金しましょう。これを怠り懐に入れると刑法第254条の「占有離脱物横領罪」に該当します。いずれにせよ、場合によっては罪に問われるわけです。
とはいえ、釣り銭レベルでそこまでいくことはまずなく、民事で解決していくことになります。その際の法的な根拠が民法第703条で、「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」とされています。
不当利得の成立には、(1)法律上の原因の不存在、(2)利得の発生、(3)損失の発生、(4)利得と損失の因果関係の存在――の4つの要件が必要です。ここでは、しかるべき理由がないにもかかわらず、多すぎるお釣りを受け取ったわけですから、買った人が利益を得て、店が損失を被ったことになります。ですから、現に残っている利益という意味の「現存利益」をお店に返さなくてはいけません。
■遊興費に使ったら返還義務はなし
問題になるのが、もらいすぎたことを知っていたか否かです。
もらいすぎたことを知らなかったとすれば、善意ということになり、現存利益を返せば済みます。しかし、間違いを知りつつ受け取っていたら悪意があったということで、「その受けた利益に利息を付して返還しなければならない」とした民法第704条が適用され、法定金利の年利率5%を加算して返金する義務を負います。
次に支払いの際には店員の間違いに気づかず、数日後に釣り銭が多すぎたと気づいたものの、すでに相当額使ってしまっていた場合は、その使途によって異なります。
例えば「普段パチンコに行かない人がパチンコで使ってしまった」といった場合は、手元に残っている金額を返せば足ります。ところが「自宅の光熱費や家賃といった生活費に充てた」というような場合には、全額返還しなければいけないのです。
矛盾しているように思えるかもしれませんが、法律の世界ではパチンコの例について、知らないうちに(善意で)得たお金を、知らないうちに(善意で)費消したと考えます。それで遊興費の分は返還する義務がないのです。しかし生活費の場合は、間違って取得した釣り銭を使ったことで、本来なら支払うべき支出を免れており、利益が残っていると考えます。
ところで、店側による不当利得の返還請求にも時効はあります。それが、お釣りを多く渡した時点から10年となっていて、それを過ぎて相手から時効を主張されると、もはや請求できなくなります。
こうした不当利得には、自分の銀行口座などへの間違った送金も考えられます。これらを使ってしまうと釣り銭のトラブルと同じことになります。多額の振り込みを何年も放置しておいて、それが悪意と見なされ利息を請求されたら大変な金額になってしまいます。
参照:プレジデント
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