またこのような悲劇が起こってしまった。
神奈川県逗子市のデザイナー、三好梨絵さん(33)が、元交際相手の無職、小堤英統容疑者(40)に6年にもわたってつきまとわれて、刺殺されてしまった。
2011年6月、小堤容疑者は「殺してやる」などのメールを送ったとして脅迫罪で逮捕されている。警察が、その時に結婚して変わった「三好」という姓や、住所の一部を伝えてしまった。執行猶予でサクッとやりすごした容疑者はそれをヒントにネットや探偵を駆使して、彼女の自宅を割り出して、自らの40歳の誕生日に凶行に及んだ、らしい。
記者になって一番初めに取材をした大事件が、桶川女子大生ストーカー殺人だった。この事件がきっかけでストーカー規制法ができた。だから、弁護士や専門家はテレビなんかで「何かあったらすぐに警察に相談を」と呼びかけるようになったわけで、三好さんもそうした。
しかし、現実にそういう被害にあわれた方たちを取材してきた者からすると、一概にそうとも言えず、警察への相談が裏目に出ることも多い。
例えば、愛知県安城市で自宅マンションの前で、元カレのパチンコ店員(31)に襲撃されて脳挫傷で亡くなった女性(32)がいるが、このストーカーをここまで激しくさせたのは、女性から相談を受けた警察がたびたび「警告」をしたことで、「ストーカー扱いされて憎くなった」と逆ギレしたからである。つまり、警察の介入を「宣戦布告」と受け取り、憎しみがヒートアップするのだ。
そんな理不尽な話があるか、と怒りを覚えるだろうが、理不尽な事件を犯す者たちは、常人にははかりしれぬ理不尽な発想をするものなのだ。だから、このような悲劇を繰り返さぬために本当に必要なのは、犯罪者の「仕分け」だと思っている。
現在の刑法では、チカンだろうが、ひったくりだろうが、ヤクザの大親分だろうが、みな等しく同じ刑事訴訟法に基づいて逮捕されるが、ここにストーカーや性犯罪者など被害者に特殊な感情を抱いている者を含めず、個別対応できるように法制整を行うべきだ。
彼らにはそもそも自分が悪いことをしているという意識がない。それどころか、小堤容疑者が三好さんに慰謝料を請求していたことからも分かるように、むしろ被害者だと思っている。
●“モンスター”が生まれてしまうワケ
想像してほしい。そういう勘違いをしている男のもとに屈強な男たちがやってきて、自分を捨てた憎き女の名前を読み上げてガチャリと手錠をかける。「犯罪者」とされたことで、かえって憎しみが増幅して、さらなる“モンスター”が生まれてしまうのだ。
すいぶん知ったことを言うじゃないかと思うかもしれないが、こういう人たちの考えはよく知っているつもりだ。桶川ストーカー殺人からしばらく後、新潟で誘拐した小学4年生の少女Aさん(当時9歳)を9年2カ月間監禁していたという事件があった。
詳細は良かったら拙著『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』を読んでいただければ幸いだが、この本をムショで読んだ犯人から手紙が送られてきて、しばらくやりとりをした。
細かい話はこれまで週刊誌などで紹介したが、最も大事なのはこの男がまったく反省しておらず、それどころか不当な裁きを受けた「被害者」だと思っているということだ。
この話をすると、みんな「バカじゃないか、そんなヤツは一生ムショから出すな」とか「もっと厳しい刑罰を与えろ」とか言うのだが、本人がそう信じて疑わないのだからしょうがない。
しかも、彼は極度の不潔恐怖症のため刑務所内のルールや刑務官の言動をすべて「虐待」に感じている。自分の訴えを聞かず、人権侵害までする司法への恨みは、そのまま社会への憎しみにつながっているのだ。
犯人は私によこした手紙のなかで、こんなことを言っている。
《ゲバ刑(千葉刑務所の意)より苛めに苛め続けられて居る此の私が、心成らずも社会へと憎悪の炎を燃やす悪人へと変心したと為しても何等不思議は無く》
こんな精神状態のまま彼は4年後シャバに出る。満期出所した一般市民なので警察が監視したり、拘束したりはできない。極端な話、Aさんのもとへ向かっても構わないというわけだ。
●これ以上被害者を増やさないために
少年院を含めて5つの矯正施設の出入所を繰り返した後、別れ話を切り出した恋人の自宅に忍び込んで、包丁でメッタ刺しにした男がいる。ムショへ面会に行ったら、彼はイラつきながらこう言っていた。
「ムショでは食器落としても教官の許可がないと拾えない。そんなバカみたいなルールが更生になんか意味あるんでしょうかね」
意味なんてほとんどない。多くの受刑者は自由を奪われて怒りが増すだけだ。
ひとくちに「犯罪者」と言っても、こういう者と泥棒や詐欺師とはまったく種類が違う。にもかかわらず、一律で同じように裁き、同じ刑務所に入れて、同じように整列して歩かせて、同じ工場で働かせる、というのが日本の矯正教育だ。
ストーカーやらにはそれじゃ逆効果でしょ、そういう火に油を注ぐようなことをしてシャバに放り出して、本当にいいんですか、犯罪者によって刑務所を分けたりして、対応もカスタマイズすべきじゃないんですか――。
なんてことを『週刊新潮』で「刑務所が犯罪再生工場になっている」というタイトルで主張をしたら、カチンときたのか、「監禁男」が服役していた千葉刑務所から、「更生の妨げになる」と面会禁止となった。
こっちは法律にのっとってやってるんだから文句あるかというわけだ。小堤容疑者にベラベラと三好さんの住所を告げた逗子署の弁明もこれに似る。
こういう事件の時、新聞の論説委員なんかは「警察に猛省を促したい」とか締めくくるのがお約束だが、今回ばかりはそういう建前みたいな話はいい。
桶川ストーカー事件で猪野詩織さんが殺されてから、いったい何人が同じような目にあったのか。猛省とか、検証はもう十分やっただろうに。これ以上被害者を増やさないためにも、早急に法改正をし、小堤容疑者のような男を「犯罪者」ではなく「ストーカー」として扱い、専門の対処をすべきではないか。
三好梨絵さんのご冥福を心からお祈りします。
参照:Business Media 誠
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