知的障害者が容疑者となった事件について、検察が起訴や求刑などの判断に福祉の専門家の意見を取り入れる試みが始まっている。専門家の助言に基づき検察側が異例の「執行猶予付き判決」を求めた事例も。知的障害者は受刑者の5分の1ほどだが、裁判で検事が外部の助言を受ける仕組みはこれまでなく、試みは全国に広がりそうだ。
試みは平成24年6月、長崎県でスタート。臨床心理士や社会福祉士らでつくる「障がい者審査委員会」に対し、検事が処分内容の検討を依頼。審査委員会は意見書を作成し、検察側が起訴・不起訴の判断や求刑の参考にする仕組みだ。
法務省によると、23年度の新たな受刑者2万5499人のうち、知的障害者は21%の5532人。起訴・不起訴を決める権限を一手に持つ検事が、処分の判断に外部の意見を入れるのは「従来は考えられなかった」(検察幹部)という。
審査委は滋賀県でも昨年12月に設立。大阪府や宮城県、和歌山県も設立の動きが進む。最高検も各地検での導入を支援する方針だ。
■長崎から全国拡大へ
試みのきっかけを作ったのは、長崎で障害者の就業支援を行う「南高愛隣会」理事長の田島良昭さん(67)。田島さんは18年、厚生労働省研究班の一員として、刑務所の知的障害者を調査。障害者の割合が大きく再犯率も高いことに「愕然(がくぜん)とした」という。
背景に、罪を犯した障害者が適切な支援を受けられず、就職しづらい現状があることも突き止めた。研究成果は21年、出所した障害者の自立を国が支援する事業に結実。毎年3万人超いた入所者が年1千人ペースで減るなど成果も表れた。
ただ、田島さんは、出所後の就業支援など“出口”と同時に、起訴や求刑など“入り口”で助言できればより効果的と考えていた。そこで21年、厚労省のモデル研究として、入り口段階で検察に適切な処分を意見する試みを開始。しかし当初は、意見書作成に弁護士が加わっていたため、検察側が抵抗、意見が採用されない例が続いたという。
■特捜部改竄事件で変化
しかし、22年9月の大阪地検特捜部の証拠改竄(かいざん)事件を受け、検察が組織改革に乗り出す中で潮目が変化。「検察側も意見を無視できなくなった。そこで意見書の作成に弁護士の関与をなくし、検察も利用しやすい制度にした」という。
実際、24年2月には長崎地裁五島支部で、窃盗罪などに問われた知的障害者の男性被告について助言した結果、検察側は民間の更生施設入所を条件に「執行猶予付き判決」を希望する異例の求刑を行った。田島さんに「障害者の処分のあり方に悩んできた」と明かすベテラン検事もいたという。
田島さんは「罪を償う義務は健常者も障害者も同じ」とした上で、「刑務所と違う償い方がふさわしい障害者もいる。検事は法律のプロだが、全員が福祉に精通しているわけではない。再犯率の低下を目指し、助言制度を全国に拡大させたい」と話している。
参照:産経新聞
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