法相の諮問機関・法制審議会の特別部会で18日、新しい刑事司法制度の基本構想案が示されたことで、取り調べの可視化(録音・録画)は制度化に向け具体的に動き出した。しかし、この日の部会では構想案の内容に対して「これまでの議論を反映した案とは言い難い」「不十分だ」といった異論が相次いだ。
日本弁護士連合会元会長の宮崎誠委員は、部会設置のきっかけとなった大阪地検特捜部の郵便不正事件と証拠改ざん・隠蔽(いんぺい)事件を念頭に「検察捜査に対する信頼が揺らいでいるという問題意識が感じられない。(通信傍受など)捜査手法だけ強化され、捜査機関の焼け太りだ」と批判。案のうち「録音・録画の範囲を取調官の一定の裁量とする」とした部分を外し、代わりに「身柄拘束の全事件」を盛り込むよう求めた。
07年公開の「それでもボクはやってない」で痴漢冤罪(えんざい)を描いた映画監督の周防正行委員は、裁判員裁判の対象事件に限り全面可視化するとした併記部分も疑問視。「将来的に拡大するとしても、現時点で裁判員に限定すべきではない。検察の取り調べは全て対象とする案を入れるべきだ」と発言した。
郵便不正事件で無罪が確定した厚生労働省社会・援護局長の村木厚子委員も「非常に残念な案で、強く反対する。裁判員対象事件は全体の3%に過ぎず、(取り調べが)問題となった事件も裁判員対象外だった。現在の捜査機関の試行範囲よりも狭く、不十分だ」と不満をあらわにした。
一方、警察庁刑事局長の舟本馨委員は「可視化は弊害もあることを考慮すべきだ」と述べ、横浜地検検事正の大野宗委員は裁判員裁判対象事件に限定する案を支持した。
特別部会は29日にも開かれ議論を続ける。
◇解説…分かりやすい仕組みを
特別部会は大阪地検特捜部の証拠改ざん・隠蔽事件を機に発足した「検察の在り方検討会議」の提言を受け11年6月に設置され、法曹三者や警察、学者、民間人ら委員26人と幹事14人で議論を進めてきた。基本構想案では取り調べの録音・録画(可視化)について、捜査当局に配慮して「取調官の一定の裁量に委ねる」との案も併記されたが、部会全体が最低限共通して認められる「裁判員裁判の対象罪名での身柄拘束(逮捕)事件」に適用範囲を絞った格好だ。
ただ、この日の議論で異論が続出したことから、次回の議論で内容が変更される可能性もある。
一方、議論のテーマは可視化のほか「取り調べや供述調書に過度に依存した捜査・公判の見直し」もある。新しい捜査手法を巡っては、これまでの議論で、警察OBの委員が通信傍受について「十二ひとえを着てテニスをするようだ」と使い勝手の悪さを強調。理解を示す意見が相次いだことから、適用範囲の拡大に向けた検討が進みそうだ。
いわゆる「司法取引」については「裏付け困難な虚偽供述で捜査がかく乱される恐れがある」と懸念する警察と、有用とみる検察が対立。他にも▽証拠開示制度▽国選弁護制度▽虚偽供述に対する制裁など司法機能妨害行為への対処--など論点は多岐にわたる。次々回以降は二つの分科会に分かれて議論するとみられ、結論を得るには相当の時間がかかる見通しだが、裁判員制度に関わる一般市民にも分かりやすい仕組み作りが求められている。
参照:毎日新聞
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