2013年12月24日火曜日

人手不足で注目集まる外国人実習制度、拡充に賛否両論

建設現場などでの人手不足の対応策として、外国人技能実習制度が政府内で注目されつつある。3年間を上限と定めている期間の延長などが規制改革会議などで提言されているが、政府・与党内に慎重論も根強く本格的な検討に入るには曲折を経ることになりそうだ。

 外国人技能実習制度とは、日本の技術を途上国に移転し人材育成を支援するため1993年に開始された。財団法人国際研修協力機構(JITCO)が制度を運営。中小企業が集まり日本側の窓口となる協同組合を設立し、一定期間の研修後に企業に派遣することが多い。この制度による国内在留外国人は現在約15万人。

この制度の趣旨は、日本企業が海外進出する際に現地で採用する労働力の確保を主眼とした制度だったが、ここに来て注目されているのは、産業界で人手不足の対策として同制度を活用した外国人労働力を確保したい意向が高まってきているからだ。

政府の規制改革会議は今年10月、創業・IT分野の作業部会で、制度の受け入れ期間を5年程度まで延ばすことで大筋一致。これを受けて首相官邸が設置した農林水産業・地域の活力創造本部がまとめた答申にも5年への延長が盛り込まれ、法務大臣に私的懇談会である「第6次出入国管理政策懇談会」で議論し、2014年内に結論を得ることとなっている。

しかし、政府内で制度延長に対する合意が形成されてはおらず、議論の先行きは不透明だ。政府内の主張を単純化すると、「官邸が前向き、厚生労働省が慎重、法務省は中立」(政府関係者)との構図だ。

慎重派は、国内で職に就かず学校にも通わないニートが多数いるにもかかわらず、外国人労働力を求めるのは拙速であるうえ、制度が賃金不払いなど不正の温床になっているなどの理由を上げる。

3月に広島県で中国人実習生がカキ養殖業の経営者らを殺害する事件が発生したことから、治安上の懸念を指摘する声も多い。日本労働組合総連合会は9月、不正・違法行為のあった受け入れ機関が制度を利用できないように制度厳格化を求めた。日本弁護士連合会は6月、人権上問題があるため制度廃止を求める意見書を出している。

これに対し、積極派は産業界だ。日本経済団体連合会が3月、全国中小企業連合会が8月、それぞれ制度拡充の方向で見直しを行うべきとの意見書を出している。農林水産加工業が集まる農村や漁村などでも高齢化が進み、加工業の労働力確保が難しくなっているため、実習を受ける外国人が実質的な労働力としての重要性を増している。

背景にあるのは深刻さが増す人手不足の問題だ。2012年度の国内総生産(GDP)は、公共投資の伸びが推計値の前年度比14.9%増から確報値は1.3%に大幅に下方修正された。人手不足で公共工事の進捗が大幅に遅れた結果だ。「体力が必要な建設現場は、ニートでは対応が難しい」(別の政府関係者)として、外国人労働力に期待が集まる背景となっている。

制度の廃止を求めている日弁連も、外国人の人権にも配慮したうえで非熟練労働者の受け入れを前提とした在留資格の創設を国会などで検討するよう提言している。

政府関係者の間でも、東南アジアの国々などとの就労ビザの拡充などを検討したいとの声も聞かれる。日系ブラジル人と地域社会との間の摩擦などを参考に、外国人が日本社会に溶け込みやすい体制づくりについて、検討の余地があるとの声も浮上している。

JPモルガン証券・シニアエコノミストの足立正道氏は「日本社会最大の問題が人口減少。農業や漁業の現場では、すでに外国人が必要とされている。今すぐ必要な労働力については、研修制度の活用などが有効」とみる。

安倍晋三政権は今月26日で発足から2年目に入り、ここから先の経済政策に注目集まっている。株式市場関係者の間では、1)法人税引き下げ、2)移民など外国人労働者の導入を求める声──などが多く、政府が外国人労働者について早期の本格的検討を始めれば注目されそうだ。

参照:ロイター

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