今年8月28日、元岡山弁護士会所属弁護士の福川律美被告(65)に対し、岡山地裁が懲役14年の判決を言い渡した。交通事故や医療過誤の損害賠償請求訴訟で支払われた賠償金のほか、成年後見人として預かっていた財産など、計22件で総額約9億円を着服していたもの。福川被告は着服の事実は認めているものの、1審では着服した資金の流用先などは明らかになっていない。福川被告は9月11日付で控訴している。
10月15日には元香川県弁護士会長の徳田恒光被告(81)の論告求刑が行われ、検察側は懲役2年を求刑した。成年後見人として保管していた3人の預金など420万円を着服したとして業務上横領罪に問われたもので、判決の言い渡しは11月26日である。
10月17日には静岡県弁護士会所属の弁護士だった中川真被告(50)に対し、静岡地裁が懲役3年執行猶予4年の判決を言い渡した。こちらも成年後見人として管理していた女性の預金1460万円を、無断で引き出した横領容疑で、検察は懲役3年を求刑していた。
10月30日には、元東京弁護士会副会長・松原厚被告(76)に対し、東京地裁が懲役5年の判決を言い渡した。成年後見人として管理していた、精神障害のある女性の預金4244万円を着服したとして、業務上横領罪に問われた。
このほか、元九州弁護士会連合会理事長・島内正人被告(66)の論告求刑が11月19日に予定されている。北九州市の女性の成年後見人の男性に、女性の財産を共同で管理するよう裁判所から指示された、というウソをつき、女性の預金4400万円を自分の口座に振り込ませたとする詐欺罪のほか、複数の依頼人からの預かり金約1300万円を横領したとする業務上横領罪にも問われている。
成年後見制度に絡む弁護士の犯罪が頻発している。刑事事件化したことが報道されている弁護士は、この2年間で9人に上る。
9人のうち7人は逮捕前に弁護士登録を抹消しており、逮捕報道時は「元弁護士」という肩書きになっているが、今も2人は弁護士登録を抹消していない。
弁護士は有罪判決が確定すると弁護士資格を失うが、確定するまでは資格は維持される。推定無罪の原則に従い、弁護士会は基本的に、弁護士が逮捕されても、それ以前に出ている懲戒請求の審理をいったんやめ、逮捕を理由に除名処分を下すということはしない。
したがって、弁護士会費を支払えているかぎり、刑事被告人と言えども弁護士登録は継続できる一方で、逮捕前に破産の申し立てをして資格を喪失するケースもある。
逮捕前に登録を抹消しなかった上記2被告のうちひとりは、1審の判決待ちの状態。もうひとりは今年7月に執行猶予なしの2年6カ月の懲役という判決を受けている。 過去の事例で言えば、着服したおカネを全額返金している場合は執行猶予がついているので、返金したのに執行猶予がつかなかったのはおそらく初めてだ。
■ 申し立て件数は増加の一途
成年後見制度はかつての禁治産、準禁治産制度に代わって2000年4月から始まった制度だ。認知症、知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な人は、不動産や預貯金などの財産管理をしたり、介護施設への入居契約などを締結する際、本人に不利益な条件で財産を譲渡したり、契約を結んだりしてしまうおそれがある。悪徳商法の被害に遭う可能性も高い。このため、本人の利益を考えながら、本人を代理して法律行為を行ったり、法律行為に同意したりする、「成年後見人等」を家庭裁判所が選任する制度が「法定後見制度」だ。また、本人が十分な能力があるうちに、将来に備えて代理人を選んでおき、公正証書にしておくのが「任意後見制度」である。
申し立て件数は年々増加しており、初年度の2000年4月~2001年3月は9007件だったが、2012年1~12月は3万4689件にまで増えている。このうち棄却や取り下げになるものは1割程度で、申し立て件数のほぼ9割が申し立てを認められる認容扱いになっている。
最高裁が統計の対象期間を2008年に変更したため、上のグラフは2001年3月末時点から2008年3月末時点までは4月から3月、2008年12月末時点以降は1月から12月になっている。
2006年4月~2007年3月の申し立て件数が突出しているが、これは障害者自立支援法の施行に伴い、知的障害者の親が子の後見人となる申し立てが急増したもので、一時的な現象と言える。
したがって、弁護士会費を支払えているかぎり、刑事被告人と言えども弁護士登録は継続できる一方で、逮捕前に破産の申し立てをして資格を喪失するケースもある。
逮捕前に登録を抹消しなかった上記2被告のうちひとりは、1審の判決待ちの状態。もうひとりは今年7月に執行猶予なしの2年6カ月の懲役という判決を受けている。 過去の事例で言えば、着服したおカネを全額返金している場合は執行猶予がついているので、返金したのに執行猶予がつかなかったのはおそらく初めてだ。
■ 申し立て件数は増加の一途
成年後見制度はかつての禁治産、準禁治産制度に代わって2000年4月から始まった制度だ。認知症、知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な人は、不動産や預貯金などの財産管理をしたり、介護施設への入居契約などを締結する際、本人に不利益な条件で財産を譲渡したり、契約を結んだりしてしまうおそれがある。悪徳商法の被害に遭う可能性も高い。このため、本人の利益を考えながら、本人を代理して法律行為を行ったり、法律行為に同意したりする、「成年後見人等」を家庭裁判所が選任する制度が「法定後見制度」だ。また、本人が十分な能力があるうちに、将来に備えて代理人を選んでおき、公正証書にしておくのが「任意後見制度」である。
申し立て件数は年々増加しており、初年度の2000年4月~2001年3月は9007件だったが、2012年1~12月は3万4689件にまで増えている。このうち棄却や取り下げになるものは1割程度で、申し立て件数のほぼ9割が申し立てを認められる認容扱いになっている。
最高裁が統計の対象期間を2008年に変更したため、上のグラフは2001年3月末時点から2008年3月末時点までは4月から3月、2008年12月末時点以降は1月から12月になっている。
2006年4月~2007年3月の申し立て件数が突出しているが、これは障害者自立支援法の施行に伴い、知的障害者の親が子の後見人となる申し立てが急増したもので、一時的な現象と言える。
■ 急増する専門家後見人
法定後見制度は本人の判断能力の程度によって3段階に分かれていて、判断能力が不十分という程度なら「補助人」、判断能力が著しく不十分という場合は「保佐人」、そして判断能力が欠けているのが通常の状態という場合に「後見人」がつく。
保佐人や補助人は、家裁が定めた限定的な範囲の法律行為に同意したり、代理したりするだけだが、後見人は財産に関するすべての法律行為を代理できる。
2012年12月末時点で、成年後見制度を利用している「本人」は16万6289人だが、そのうち82%に当たる13万6484人が後見人をつける、狭義の成年後見の利用者だ。
男女別では利用者の4割が男性で6割が女性。男性利用者の58%、女性利用者の82%が70歳代以上。利用目的では4割が預貯金等の管理、解約で、次いで17%が介護施設入所のための介護保険契約締結である。
申立人では「子」がトップで全体の36%。4年前と比較すると3~4ポイント下がっている。その分、上昇しているのが市町村長。天涯孤独の人は市町村長が申立人になる。
そして問題の後見人に誰がなっているかだが、2012年の実績では「子」が25%でトップだが、4年間で7ポイントも低下している。その一方で近年、増加が著しいのが弁護士(14%)や司法書士(19%)、そして社会福祉士(9%)である。弁護士は4年間で5ポイント、人数では倍増している。
財産管理や契約行為、もしくは身上監護などが主たる業務になるので、弁護士、司法書士、社会福祉士といった専門家が後見人につくこと、それ自体は歓迎すべきことだ。とはいえ、家裁の監督下にあるはずの成年後見制度でなぜこうも不正、それも弁護士の不正が起きるのか。
法定後見制度は本人の判断能力の程度によって3段階に分かれていて、判断能力が不十分という程度なら「補助人」、判断能力が著しく不十分という場合は「保佐人」、そして判断能力が欠けているのが通常の状態という場合に「後見人」がつく。
保佐人や補助人は、家裁が定めた限定的な範囲の法律行為に同意したり、代理したりするだけだが、後見人は財産に関するすべての法律行為を代理できる。
2012年12月末時点で、成年後見制度を利用している「本人」は16万6289人だが、そのうち82%に当たる13万6484人が後見人をつける、狭義の成年後見の利用者だ。
男女別では利用者の4割が男性で6割が女性。男性利用者の58%、女性利用者の82%が70歳代以上。利用目的では4割が預貯金等の管理、解約で、次いで17%が介護施設入所のための介護保険契約締結である。
申立人では「子」がトップで全体の36%。4年前と比較すると3~4ポイント下がっている。その分、上昇しているのが市町村長。天涯孤独の人は市町村長が申立人になる。
そして問題の後見人に誰がなっているかだが、2012年の実績では「子」が25%でトップだが、4年間で7ポイントも低下している。その一方で近年、増加が著しいのが弁護士(14%)や司法書士(19%)、そして社会福祉士(9%)である。弁護士は4年間で5ポイント、人数では倍増している。
財産管理や契約行為、もしくは身上監護などが主たる業務になるので、弁護士、司法書士、社会福祉士といった専門家が後見人につくこと、それ自体は歓迎すべきことだ。とはいえ、家裁の監督下にあるはずの成年後見制度でなぜこうも不正、それも弁護士の不正が起きるのか。
■ 家裁への報告義務無視し不正が長期化
その原因は、?そもそも資質に問題がある人物であることを家裁が見抜けないということ、?そして家裁への定期報告義務を怠る後見人に対し、家裁が強い態度で臨んできたとは言い難いということ、?そして本人の親族の弁護士への盲目的な信頼と無関心――この3つに尽きるのではないだろうか。
刑事事件化するほどの不正を働いた弁護士の中には、弁護士会の幹部を務めた人物も含まれているし、過去に懲戒歴がある弁護士も9人中2人だけ。その弁護士が食い詰めているかどうかといったことや、交通の便が悪い病院や老人ホームに定期的に本人を訪ね、本人と丁寧な対話を重ねられるような人物なのかどうか。それを家庭裁判所に見抜けるのかどうかは極めて疑問なので、入り口の部分で、資質に問題がある弁護士を排除できないということについては理解ができる。
ただ、問題は?だ。後見人は家裁に対し、定期的な報告を行う義務があるのだが、報告サイクルや報告内容は各家裁、担当裁判官、そして事案によって実にさまざまで、必ずしも1年に1度というわけでもない。だが、いずれにしても報告書の内容の精査と、報告を怠っている後見人弁護士への追及を家裁が徹底していれば、早い段階で不正に気づくはずだろう。
一般に成年後見人弁護士による財産の流用は、被後見人本人の死亡によって初めて発覚するという。しかも不正を働いた後見人弁護士が口を割らなければ、実際にいくらを流用されたのかを知る術は親族にはない。後見開始時点でいくらの資産があったということを把握できるだけで、その後の増減は後見人弁護士のみぞ知るのである。
■ 家裁の監督強化で大量の不正が暴かれる
親族がなかなか後見人弁護士の不正に気づかないのは、家裁が選任した弁護士であるがゆえに盲目的に信用しているからということがある。被後見人を後見人弁護士がほとんど訪問していないという事実を、親族が把握できていないということは、親族も後見人の行動、もっと言えば被後見人に対して無関心だということになる。
親族以外の第三者に後見人を任せるというケースは、親族間に財産争いがあったり、そもそも財産争いになることが嫌で、お互いかかわりたくないという気持ちが親族間にあったりする場合が多い。無関心になりやすい土壌はある。
もっとも、家裁に提出される報告書を親族が閲覧することは許されない。親族と言えども、本人の同意なしに本人のプライバシーに関する報告書を見ることは許されない。そうなると、やはり家裁の監督強化以外に後見人の不正を防止する手段はないだろう。
後見人に監督人をつける方法もあるが、よほど信頼できる人物や組織に頼まないと、監督人と後見人がグルになるということもありうる。
今後、家裁が後見人の監督を強化していくことは間違いない。まだ表面化していない不正が本格的、かつ大量に暴かれる可能性もある。
その原因は、?そもそも資質に問題がある人物であることを家裁が見抜けないということ、?そして家裁への定期報告義務を怠る後見人に対し、家裁が強い態度で臨んできたとは言い難いということ、?そして本人の親族の弁護士への盲目的な信頼と無関心――この3つに尽きるのではないだろうか。
刑事事件化するほどの不正を働いた弁護士の中には、弁護士会の幹部を務めた人物も含まれているし、過去に懲戒歴がある弁護士も9人中2人だけ。その弁護士が食い詰めているかどうかといったことや、交通の便が悪い病院や老人ホームに定期的に本人を訪ね、本人と丁寧な対話を重ねられるような人物なのかどうか。それを家庭裁判所に見抜けるのかどうかは極めて疑問なので、入り口の部分で、資質に問題がある弁護士を排除できないということについては理解ができる。
ただ、問題は?だ。後見人は家裁に対し、定期的な報告を行う義務があるのだが、報告サイクルや報告内容は各家裁、担当裁判官、そして事案によって実にさまざまで、必ずしも1年に1度というわけでもない。だが、いずれにしても報告書の内容の精査と、報告を怠っている後見人弁護士への追及を家裁が徹底していれば、早い段階で不正に気づくはずだろう。
一般に成年後見人弁護士による財産の流用は、被後見人本人の死亡によって初めて発覚するという。しかも不正を働いた後見人弁護士が口を割らなければ、実際にいくらを流用されたのかを知る術は親族にはない。後見開始時点でいくらの資産があったということを把握できるだけで、その後の増減は後見人弁護士のみぞ知るのである。
■ 家裁の監督強化で大量の不正が暴かれる
親族がなかなか後見人弁護士の不正に気づかないのは、家裁が選任した弁護士であるがゆえに盲目的に信用しているからということがある。被後見人を後見人弁護士がほとんど訪問していないという事実を、親族が把握できていないということは、親族も後見人の行動、もっと言えば被後見人に対して無関心だということになる。
親族以外の第三者に後見人を任せるというケースは、親族間に財産争いがあったり、そもそも財産争いになることが嫌で、お互いかかわりたくないという気持ちが親族間にあったりする場合が多い。無関心になりやすい土壌はある。
もっとも、家裁に提出される報告書を親族が閲覧することは許されない。親族と言えども、本人の同意なしに本人のプライバシーに関する報告書を見ることは許されない。そうなると、やはり家裁の監督強化以外に後見人の不正を防止する手段はないだろう。
後見人に監督人をつける方法もあるが、よほど信頼できる人物や組織に頼まないと、監督人と後見人がグルになるということもありうる。
今後、家裁が後見人の監督を強化していくことは間違いない。まだ表面化していない不正が本格的、かつ大量に暴かれる可能性もある。
参照:東洋経済
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