2013年11月21日木曜日

<増える悪質投資商法>「放っておけない。自分のお母さんのよう」親身装い騙す

 「必ずもうかります」と、悪質な投資業者から未公開株や先物取引などの投資を電話で勧誘され、多額の財産を失う高齢者が後を絶たない。手口は巧妙化する一方で、法律の限界を指摘する声もある。被害の実情と法規制の現在を紹介する。

 「あれが何から何まで全部うそだったとは」。関西地方に住む70代の女性は「今もキツネにつままれたような気持ち」とつぶやく。悪質業者は心の隙(すき)を突いてくる。

 ●「損失取り戻そう」

 発端は最近あった「あなたが取り戻せていないお金のことで連絡しました」という男からの1本の電話だった。弁護士を名乗り「金融庁の被害者救済事業で連絡している。次の番号があなたの整理番号ですからメモするように」と矢継ぎ早に指示した。

 女性はその数年前、悪質な先物取引の勧誘に数百万円を振り込んだことがあった。夫は20年近く前に死別、2人の子どもは独立して1人暮らし。被害額の一部しか取り戻せず、誰にも秘密にしていた。“弁護士”は「後の手続きは委託先が担当する」と一方的に電話を切った。いつまでも電話を切らない勧誘電話とは違うと感じて、指示された番号に電話した。

 女性がかけた電話先は証券会社を名乗り、若い声の男性が「担当です」と自己紹介した。“証券マン”は「形式上は投資会社を通じて被害救済する仕組み。30万円お預かりし、1週間後に30万円全額と被害額を戻します」と説明した。手続きに自己負担はないとの事前の話と違うといぶかったが言葉巧みに説得され「あなたのためにお金を取り戻したい」と力説された。女性は「丁寧な言葉遣いの東京言葉。どんな質問にも親身に答えてくれ、この人は信頼できる。30万円くらいなら、と思ってしまった」と振り返る。

 ●証券が郵送されて

 市民ぐるみの悪徳商法被害防止対策が全国的に注目されている三重県伊賀市社会福祉協議会の平井俊圭事務局長は「典型的な2次被害」と指摘する。「最初の業者から個人情報が流出し、一度被害に遭った人が狙われる。『もうかります』という口車に乗らない人も『取り戻しましょう』という誘いには心が動いてしまうのです」

 悪質商法のなかでも投資商法による被害は2008年度ごろから増え始め、11年度には全国の消費生活センターに2万件を超える相談があった。被害者の7割が65歳以上で、500万円を超える被害が25%を占める。平井事務局長によると、伊賀市の場合、08年度に67件583万円だった被害が12年度は33件2億31万円で、件数は減ったが被害は多額になり、深刻化している。

 関西地方の女性の元には、“投資会社”からパンフレットや証券が郵送されてきた。ところが間もなく「法人監査が入るのでまとまった金額が必要になった」と話が変わる。そんな大金はないと言う女性に、“証券マン”は「では、妻に内緒で僕の貯金からお貸しします。子供のための貯金ですが、今300万円さえあれば、先に払った30万円も取り戻せていない金額もすべて戻ってくる。あなたが自分のお母さんのようで人ごとではない。このまま放っておけないんです」と声を震わせたという。女性は「このご時世にそこまで親身になってくれるなんて」と感激した。ところが、その翌日“証券マン”の部下を名乗る別の男性から「彼は今上司に呼び出されています。個人的に顧客に貸し付けるのは禁止されていて、300万円の入金がなければ会社をクビになりそうです」との電話。女性は「私が助けなければ」とせき立てられて借金し、言われた金額を送ってしまった。

 間もなく“弁護士”も“証券マン”も電話がつながらなくなった。“投資会社”の電話は呼び出し音が鳴るだけで誰も出ない。女性は「だまされた」と気付いた。

 ●尊厳傷つける犯罪

 川崎市で高齢者を支える地域づくりを進める「すずの会」の鈴木恵子代表は「もうけ話に乗せるというより、高齢者の同情を引いて金を出させる。判断力を奪って貯金を手中にする犯罪が横行するのはおかしい。『だまされる方にも落ち度がある』という考え方がある限り、被害はなくならない」と話す。「どんな家族もそれぞれの事情を抱えているもの。近所の人同士の緩い気遣いで助け合えることもある」

 悪質投資商法で奪われるのは金銭だけではない。人間関係が破壊され、自らの尊厳を傷つけられることになる。

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 ◇悪質な投資商法

 「必ず値上がりする」などとして投資を勧誘する商法。購入後、業者と連絡が取れなくなり、トラブルになるケースが多い。未公開株や社債、外国の通貨、シェールガス・太陽光・風力発電施設の運用権、老人ホームの利用権など、さまざまな「商材」を持ち出す。複数の役割の人が登場して購入を勧める「劇場型」である▽過去の被害の損害回復などをうたう新たな勧誘にだまされる「2次被害」が多い▽被害金額が大きい--ことが特徴。全国の消費生活センターに寄せられる相談の当事者の8割以上は60歳以上。資産が多く、老後に不安を持つ高齢者が狙われている。

参照:毎日新聞

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